ガラクタ道中拾い旅













第八話 戦場での誓い














STEP3 願いを拾う































「ワクァ、大丈夫っスか? 昨日、随分クシャミをしてたみたいっスけど……」

「大丈夫だ。熱もダルさも無いし、朝になったらクシャミは止まっていた」

「ワクァ、口調、口調。トゥモくんも、ここから先はワクァって呼ばないように気を付けてよね。どこで誰が見てるかわからないんだから」

ヨシに注意を受けたワクァは口を噤み、姿勢を正した。服装は、ヨシが王妃より借り受けてきた外出用のシンプルなドレス。下にはいつもの服を着込んでいるが、ドレスに隠されて微塵も見る事ができない。以前湖で拾い上げた鬘は良い香りのするオイルを使って丹念に手入れされ、冬の雪中でも咲くという白い生花を髪飾りにして身に付けている。顔には、少し大人びて見えるように施された薄化粧。ドレスの下には勿論、リラを隠し持っていた。

「……って言うか、何で服の上にドレスを着て、そこまで細く見えるのよ……」

呆れるような羨むような声で、ヨシと、バトラス族の少女であるタズがワクァの全身を眺めた。

今回の女装は作戦上仕方が無く、当人も不本意ながら納得の上である。そして作戦の都合上、とにかく徹底的に美しく見せる必要がある。それらの理由から、二人の少女は思う存分ワクァのドレスアップとメイクアップができたようで、今から危険な地に行くにも関わらず満足気である。

ワクァ以外の男達は全員、ヘルブ国軍の兵士の鎧に身を包み、ヨシとタズはいつも通りの服装だ。

「よし、じゃあ出掛ける前に、最後の作戦確認だ」

外に出る前に、アークを中心に全員が輪になった。今回の作戦に参加するのは、ワクァ、ヨシ、トゥモ。ユウレン村のアークに、アズ、クルヤ、ソウト、ナツリ、ミェート、ヨォク、スネッチ、チェージ、リョップ。そしてバトラス族からはヨシの幼馴染であるセイ、カノ、タズの三人が加わった。

「まず、作戦……と言うか、設定はこうだ。ヘルブ国の王は、民を戦争に巻き込まないためにホワティアに降伏する事に決めた。そして、その証として王妃様を砦からホワティアの陣まで送る事にする。その王妃様を送り届ける部隊が、俺達だ。……で、王妃様というのは、変装したワクァの事」

ワクァが頷く。次いで、アークはヨシとタズを見た。

「男は全員、王妃様を無事に敵陣へ送り届け、その後もお守りするための護衛役。女二人は、王妃様に仕える侍女役だ。侍女達は森を抜ける間足手まといにならないよう、動き易い服装をしている。……侍女の着るようなドレスが手に入らなかった言い訳として通るかどうか怪しいところだが、とにかくそれで貫き通してくれ。……森を歩いて、ホワティアの陣へ辿り着ければ、それで良し。森の中でホワティアの兵に会っちまったら、とにかく抵抗せず、ホワティア王の元へいけるようにする」

ヨシとタズが頷き、男達も頷いた。アークも頷き、更に口を開く。

「ここで、気を付けるべき事が二つある。一つは、抵抗はしないが、手足の自由を奪われないようにする事。動けなくされちまったら、あっちまで行く意味が無ぇからな。最悪、男は仕方ないにしても、女二人とワクァは何とか縛られないようにしろ。良いな?」

「もう一つは……ワクァはギリギリまで戦うな、だったっスね?」

トゥモが言えば、アークとワクァが頷く。

「王妃様が戦うわけがねぇからな。ワクァが戦った瞬間に、この作戦はおじゃんになる。ワクァが戦っても良いのは、ホワティア王の前に引き出された時だけだ。それ以外の時は、戦うな。例え、俺達のうちの誰かが死にそうな事になっても、だ」

ワクァは、険しい顔をして頷いた。強く握られた拳が、小刻みに震えている。その様子に、アークは苦笑した。

「緊張すんなって。皆、そう簡単に死んだりしねぇ。……だろ?」

全員が、力強く頷く。その様子に、ワクァは弱々しく微笑んだ。

「そう簡単に……じゃない。絶対に死なない。……そうだろう?」

その言葉に、アーク達はきょとんとした。そして、フッと笑う。

「そうだ、その意気だ! そうだな、皆!?」

おう! という力強い声が響く。そして、皆でいたずらを始める子どものような顔をする。

「それじゃあ、今からは全員、自分の役になり切るんだぞ。良いな?」

全員が頷き合い、深く呼吸をする。その呼吸が緊張を紛らわせるためのものなのか、役に入りきるためのものなのかは、当人にしかわからない。

アークが、ワクァに視線を遣った。

「それでは、王妃様……そろそろ」

ワクァが、静々と頷く。

「それでは……皆、頼みます」

あまりの変わりぶりに、特に役を作らずに済んだミェートとスネッチが視線を交わし合った。そして、小さな声で囁き合う。

「意外な一面を見た……」

「俺もだ……」

その囁きを聞いたヨシは、思わず苦笑した。











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