ガラクタ道中拾い旅













第八話 戦場での誓い












STEP1 戦う意思を拾う



























「あん? バトラス族の戦争準備? 決まってんだろ」

追い付いて真面目に問うたヨシに、リオンは事も無げに言った。

「城中……いや、街中歩き回って、使えそうなモンを山ほど拾ってこい」

「……うん、やっぱそうなるわよね」

納得して頷くと、ヨシはそのまま物探しに走り出す。

綺麗に片付けられている上に夜でも明るい城内は後回しで良いだろう。まずは街へと繰り出し、良さそうな物は無いかと首を巡らせた。

「よぉ、ヨシちゃん! どうしたんだ?」

突然、背後から声をかけられた。振り返ってみれば、以前働いていた事のある酒場の常連客が何人か、どこかホッとした表情でヨシの方を見ている。

「ラダさん達……どうしたの、こんな時間に? 仕事は? 夜になる前からお酒?」

目を丸くしたヨシに、街の男達は苦笑しながら首を振る。

「違うよ。……ほら、ホワティアと戦争になりそうだって話だろ? だから今、万が一に備えて街中の点検を皆でして回ってるのさ」

「壊れたところがあれば直しておいたり、避難経路を確認したりしておかないとな」

男達の言葉に、ヨシは眉を曇らせた。それを何と解釈したものか、男達は皆、申し訳なさそうに頭を掻く。

「……ごめんな。俺達が強けりゃ、ヨシちゃんに心配なんかさせなくても良いのにな」

「うん、ヨシちゃんや……バトラス族みたいに強けりゃ、万一の時には俺達がホワティアの奴らを追っ払ってやる! って息巻けるのにな」

「万一にもホワティアの奴らがここまで来ちまったら、それって軍が負けた事になるもんな。……軍が勝てなかった奴らに俺達が敵うわけがねぇ……なんて考えちまうのが、情けねぇ……」

「そんな事……」

無い、と言おうとした。だが、男達は首を振って、その言葉を遮る。

「ヨシちゃんは優しいからさ。きっと、俺達だって頼りになる、俺達がいれば街を留守にしても陛下は安心だ、って言ってくれるんだろうな。けどさ……俺達に大した力は無いって事、わかっちまってるからさ……」

空気が、しんみりとしてしまった。しかし、それを打ち払うかのように誰かが「けどさ……」と呟く。

「せめて、戦争が終わってから、帰ってきた兵士達を安心させてやれるように、努力はするよ」

「……ヨシちゃんも、行くんだろ? 闘技場で、バトラス族の次の族長だって言ってたもんな」

ヨシが頷けば、男達は目配せをして頷き合う。

「ヨシちゃんがまたヘルブ街に帰ってくる時まで、俺達全員、元気でいられるように頑張るよ。ヨシちゃんだけじゃない。戦争に行った奴ら全員が帰ってきた時に、元気な顔を見せる事ができるように頑張る。それで、また皆で、あの酒場で飯を食ったり酒を呑んだりして、馬鹿騒ぎができるように頑張る」

その言葉に、ヨシは破顔して頷いた。男達も、会った時よりも更に緊張が解けた様子で頷いた。

「その時はさ、ヨシちゃんもまた、一緒に飲んで、騒ごう。あのクーデター騒ぎの時に約束したのに、まだ実現できてないもんなぁ」

そう言えば、城でクーデターが起きたらしい事に気付いた時に、街の男達が力を貸してくれた。その時に、玉ねぎサラダとトマトジュースをおごると約束していた。

「そうね。その時には、今度こそおごるから。玉ねぎサラダと、トマトジュース!」

男達が、苦笑する。どこからか「楽しみにしてるよ」という笑い混じりの声も聞こえた。

「ヨシちゃんと飲む時には、良かったらあの時の兄ちゃん……ワクァ王子殿下も、一緒にどうだい? ……無理か、やっぱ」

「お城を抜け出せるなら、街の人達と飲むって事がどういう事かも知らないまま、ノコノコと付いてくると思うわよ。お城の生活に飽き飽きしてるみたいだし」

男達は一瞬ぽかんと呆け、そしてドッと沸いた。

「飽き飽きか! そりゃ良いや!」

「今の陛下は優しくて俺達庶民の事も考えてくださる良い王だが、次はフットワークが軽くて庶民に気安い、楽しい王になりそうだな!」

「いやいや、楽しくはないと思うわよ。ワクァの性格じゃ……」

苦笑いをして、また少しだけ世間話をして。そしてヨシは、男達と別れた。ふと、地面にボタンが一つ落ちている事に気付く。誰かのシャツから、糸が切れて落ちたのだろう。何となく拾って、コートのポケットに仕舞い込んだ。

その後も街をうろついては、飾り部分が壊れて取れてしまっている髪留め、折れた羽ペン、元はペンダントの一部であったと思われる切れた皮ひも、少し曲がった、ベルトの金具。金具はU字型の部分に紐を通して、穴に棒を差し込んで使うタイプの物だ。その他にも、色々。

それらをひょいひょいと拾っては、鞄に入れていく。いつになく大漁だ。

しかし、ヨシの顔はどうにも晴れない。先ほどの、街の男達との会話が、頭から離れない。

「もし、国境を守り切れずに、軍が負けたら……ホワティアがここまで攻め込んでくる……」

わかっていた事ではあるが、その時になって最も被害を被るであろう街の人間達から直接その不安を聞かされると、胸にずしりと来るものがある。

「……絶対に、食い止めないといけないわね……」

自らに言い聞かせるように呟くと、空を見る。空が薄暗くなっている。

そろそろ城に戻ろうかと、街の中央を目指して歩き始めた。すると、道の途中で見知った姿を見付ける。

「あれ、ファルゥちゃん? シグくんも」

声をかければ、二人は嬉しそうな顔をして駆け寄ってくる。

「どうしたの? ……そう言えば、二人とも闘技大会の後、姿が見えなかったわよね?」

首を傾げて見せれば、ファルゥは少し誇らしげに、胸を反らして見せる。

「闘技大会の後、しばらく王妃様のお話し相手をさせて頂いていましたの。戦争が始まるかもしれない事もさる事ながら、たった一人のご子息であらせられる――しかも、再会したばかりのワクァ様まで戦地に赴くかもしれないと、酷く不安なご様子でしたので。気分転換にでもなれば、と」

「王妃様は元々、あまりお体が丈夫な方ではありませんから……話すうちに、疲れてしまったご様子だったので、早めに下がらせて頂きました。そうしたら、ファルゥ様が……次に王妃様とお話しする時のために、話題を仕入れたいと……」

そのために城を抜け出し、街中を見て回っていたらしい。相変わらず、凄まじい行動力だ。これに関しては、彼女はワクァよりもずっと上だろう。

「……って事は、ファルゥちゃん。しばらくは、お后様の部屋に出入りする事になるわけ?」

ふと頭を過ぎる事があり、ヨシはファルゥに問うた。ファルゥが頷いたところで、問いを重ねる。

「無理かもしれないとわかりながら訊くんだけど……お后様に会える時間とか、割と自由に決めたりできない? 例えば、今からとか……」

「今から……ですか?」

ファルゥは、考えるように眉根を寄せた。

「たしかに、王妃様はいつでも遊びにきて欲しいと仰ってくださいましたわ。ですが、先ほどシグが申しました通り、今はお疲れになってお休みになられていらっしゃいます。会ってくださるかは……」

「……じゃあ、国境に行く前に、一度会う事はできないかしら? ……ワクァのためにも」

「ワクァ様の……」

ヨシが何かを考えている事に気付いたのだろう。ファルゥが、ハッと顔を引き締めた。そして、力強く笑って見せる。

「そういう事でしたら、今すぐにでも頼みに行ってみますわ。……ワクァ様抜きでお会いしたいんですのよね?」

「さっすがファルゥちゃん! わかってる!」

嬉しそうなヨシの言葉に、ファルゥも嬉しそうに胸を張る。ついでに、ファルゥを褒められたシグも嬉しそうだ。

夕闇の中、三人は城への道を急ぐ。出立は、明日の朝だ。












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