ガラクタ道中拾い旅













第七話 闘技場の謀












STEP2 歴史を拾う





























昔々。この地には、複数の異なる民族が点在していた。

小柄で体躯的に劣るものの、膨大な知識を持つウルハ族。全ての民が至上の美貌を持つ、フーファ族。各地を転々とし、最強の戦闘民族とも謳われるバトラス族。

以上三部族ほどの個性は持たないが、それぞれ独特の文化を持つ民族も両手では数え切れないほどに。

そして、全てにおいて如才無く、温和で優れた外交能力を持ったグラース族。

それぞれの民族はいつしか土地を求めて争いを始め、時には手を組み、時には裏切って、己の部族をより高めようとしていった。

そんな中、グラース族がその争いに終止符を打った。グラース族は他民族の長を説き、仲間に引き入れては、また次の民族の長を説いていく。気付けば、主だった部族のほとんどがグラース族の傘下に収まっていた。

元々争いに興味が無く、それまでの環境で満足していたウルハ族、フーファ族、バトラス族はそれまで通りの営みを続け、それ以外の民族は次第にグラース族に同化していく。

そこでグラース族の長は、元々のグラース族のみが優遇されるような事にならぬよう、複数の民族が同化した己の部族名を変える事とした。この時、ウルハ族、フーファ族、バトラス族以外の部族名は消滅し、新たにヘルブ族と呼ばれる部族が誕生した。

ヘルブ族は他の三部族とも結び付きを強め、遂に元グラース族の長は王として全ての民族の頂へと登る事となる。こうして現在のヘルブ国が生まれ、各地には先だって同化した民族の長の子孫達が領主として派遣された。特に、グラース族と早い段階で結び付いた部族の血を引く四人の領主を四大貴族と呼び、ある程度の国家基盤が出来上がった。

そして、領主の置かれた街々は、またそれぞれの特色を生み出していく。そんな中、王都ヘルブ街から離れた土地で生まれたのが、傭兵奴隷の文化である。

当初、常に主人に近侍する傭兵奴隷に求められた資質とは、主人を何者からでも守り抜く武力、主人への絶対的忠誠、何を問われても即座に答える豊富な教養、主人に恥をかかせぬ容姿と立ち振る舞いであった。

ところがある日、事件が起きた。

ある土地の領主が、息子と傭兵奴隷を連れて、他領の領主との会談に臨んだ。

その傭兵奴隷は見目麗しく挙止も優雅で、その領主自慢の傭兵奴隷であったという。そこに、落とし穴があった。

何と、相手の領主が傭兵奴隷を領主の息子、領主の息子をただの従者であると勘違いしてしまったのだ。

教養が豊富で、見目も挙止も美しい傭兵奴隷を、相手は領主の息子であると信じて疑わなかった。逆に、凡庸で冴えない領主の息子は、どう見ても晴れの日の衣装を着こんだ従者にしか見えなかったようだ。

領主は、激怒した。間違えた相手にではない。間違えられた傭兵奴隷に、だ。傭兵奴隷の教養が豊富でなければ、見目が麗しくなければ、挙止が優雅でなければ、こんな事にはならなかっただろう。

そう思い込んだ領主は、早速対策を取った。

まず、身に付いてしまった教養は、消す事はできない。それに、彼に教養が無ければ無いで、不便に感じる事もある。教養の件は、容認した。

次に、麗しい見目を台無しにしようと、額に入れ墨を入れた。しかし、これに関しては後々後悔したようだ。せっかくの美しい物を汚してしまった。しかも傭兵奴隷は主人に近侍するものであるため、嫌でも毎日汚してしまったそれが目に入ってくる。今後はやらない事にしようと、領主は反省した。

そして最終的に、美しい挙止を取り上げる事で事は解決した。どれだけ賢くとも、どれだけ美しくとも、立ち振る舞いが粗暴であったり、言葉遣いが乱暴であれば、育ちは知れる。

領主は彼の傭兵奴隷に粗雑な動き、乱暴な言葉遣いを強いた。そして、その後買い付ける傭兵奴隷候補の子どもは、皆マナーが身に付かぬように育てる事とした。

言葉を最も吸収する幼少期には、荒くれ男達と寝食を共にさせた。行儀よく振舞おうとしている様を見れば馬鹿にし、トラウマを植え付けた。

勿論、主人への揺るぎなき忠誠心と、最低限の敬語だけは身に付けさせる。そのためには、頻繁に暴力が振るわれた。

そしてこの教育方法は、国中の傭兵奴隷を使役する家に密かに伝わっていった。反発し、傭兵奴隷として買った子どもを我が子のように慈しむ領主もいたにはいたが……それはごく少数だ。ほとんどの領主が、子どもを鞭打ち、忠実で強くて教養がある……しかし、挙止の美しくない人間へと育てていった。

そして、その文化は百数十年たった今でも続いている。勿論、ワクァが育った、タチジャコウ領でも。











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