縁の下ソルジャーズ緊急出動!











16











平日昼間。技術四班の面子がほぼ復興の為に出払っている中、誠は留守番として一人、格納庫で機体の整備を行っていた。

他に誰もいない格納庫は、静かで、そして少し寂しい。少し休憩しようと考え、誠はペットボトルのお茶を手に腰を下ろした。すると。

「隣、良いかしら?」

世良の声が聞こえて、誠は目を丸くしながら首を巡らせた。片手にバスケットを持ち、魔法瓶の水筒を肩から下げた世良が、誠の返事も待たず隣に腰掛ける。

「世良さん? どうしてここに……」

「報告書を出したら、やる事が無くなっちゃったの。それに、ほら……一緒にお茶をする約束、反故にしちゃったままだし、今の状況だと気軽にお茶しに行く事も難しいから。ひとまず、これでね」

そう言って、魔法瓶を掲げて見せた。そしてバスケットからマグカップを取り出すと、湯気の立つ紅茶を注いで誠に手渡してくる。

「砂糖は要る?」

「あ、少し貰えたら嬉しいです」

答えれば、スティックシュガーを一本くれた。それに次いで、バスケットからは大きなタッパーも登場する。

「お茶菓子も要るだろうと思ったんだけど、作り過ぎちゃって……」

中身はクッキー。何種類もあり、どれも綺麗に焼けている。

「これ、世良さんが作ったんですか?」

問えば、そうだと頷きが返ってきた。「すごい……」と呟き、誠はクッキーの一つを摘み上げ、口にした。優しい甘さで、サクサクとした歯触りが心地良い。思わず顔が綻び、「美味しい」と口に出していた。

「本当? 良かったぁ。作るの久しぶりだったから、分量とか色々忘れちゃってたのよね」

「そうなんですか? お店で買った奴みたいに美味しいですけど」

そう言って、更にサクサクとクッキーを頬張る。お世辞ではなく、本当に美味しい。気付けば、両手でなければ持てない程大きなタッパーだったというのに、半分以上を食べてしまっていた。

「あ、すみません! 僕、食べ過ぎちゃったみたいで……」

「良いのよ。他の人の分はまた別に作ってあるし。さっきも言ったけど、作り過ぎちゃったから。たくさん食べてくれて、助かったぐらい!」

そう言って、世良はくすりと笑った。つられて、誠も笑う。

その誠の笑顔を見て、世良はそれまでの笑顔を消し、申し訳無さそうに表情を暗くした。

「……初瀬さん、この前はごめんね。私達が……ううん、私がもっとしっかりしてれば、初瀬さんをあんな危ない目に遭わせる事も無かったのに……」

先週の土曜日の話だ。巨大化した怪人が、作業に出ていた誠を狙って攻撃を仕掛けた。結果、誠が操縦していた重機の試作品は壊れ、誠は現在現場に出る事を禁じられている。重機の装甲が頑丈だったためか、怪我が無かったのが不幸中の幸いだ。

「そんな! 世良さん達のせいじゃないんですから、謝らないでください! そもそも、僕が勝手に違反して、戦闘中の街に作業をしに出たんですから……」

「けど、それでも初瀬さんの事を守れなかったのは、私達の失態だから。……辞めろって言われて、当たり前よね……」

小さく呟かれた世良の言葉に、誠はハッと息を呑んだ。口が滑ったと気付いたのだろう。世良も、「あっ」という顔をしている。

「……噂は、やっぱり……?」

以前、街で聞いた噂が脳裏に蘇る。ピンクは……世良はそろそろ戦士を辞めさせられるのではないか、と、世間では噂になっている。

「うん……前から噂になってたのは知っていたんだけどね。この前のアレが、駄目押しになっちゃったみたいで……」

世良は言ってから、「初瀬さんのせいじゃないからね!」と慌てて言い足した。だからと言って、「そうですよね!」と明るく返せるわけでもないが。

どう返したものかと誠が悩んでいると、世良は苦笑し、軽くため息を吐いた。

「……仕方ないわよね。街の人達を守れない、憧れてもらえないヒーローなんて、ヒーロー失格だもの。失格したヒーローは、さっさと有能な新人と交代しないと……」

「……そんな事、無いです」

絞り出すような声で、誠は言った。

「……え?」

きょとんとした顔で世良が誠の顔を見ると、誠はもう一度、「そんな事は無い」と言う。

「世良さんが辞めるのは仕方ないとか……少なくとも、僕はそうとは思いません。世良さんは、昔から僕にとってのヒーローで……それは、今でも変わっていませんから!」

空になった紅茶のマグカップを両手で握りしめながら、誠は懸命に言う。言わねばならないとか、そんな使命感は無い。声は震えているのに、絞り出すようにしなければ出ないのに、それでも言葉が勝手に飛びだしてくる。

「昔から……? 初瀬さん、昔私と会った事って……?」

「あったんです。十年も前の事なので、覚えていなくてもそれこそ仕方のない事なんですけど……」

苦笑して。そして、誠は遠くを見詰めた。その顔は、昔を懐かしむような顔で、そしてとても穏やかだ。

魔法瓶から注ぎ足されたお茶で唇を湿し、誠は口を開く。そして、十年前の事を語るために、言葉を発した。










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