縁の下ソルジャーズ緊急出動!
17
ビルが破壊され、人々が逃げまどい。そして、異形の者共が我が物顔で街中を闊歩している。
妖怪とも異星人ともキメラとも、見た者によって何とでも呼べそうな姿。誰にでも通じるように言うならば、化け物。それが、日本を……この街を狙う敵組織が毎度の如く生み出しては送りこんでくる怪人だ。
その怪人に、遊びに出ていた誠は狙われた。
鋭い爪が、誠を狙う。周りの大人達は、自分が逃げるだけで精いっぱいで、誰も誠の事を助けようとはしてくれない。よくて悲鳴をあげるだけだ。
もう駄目だ、と子ども心に思い、誠はぎゅっと目を閉じる。
だが、何も起きなかった。痛みも無く、先ほどまで感じていた息苦しさ――プレッシャーも感じなくなっている。
不思議に思い、恐る恐る顔を上げる。そこに、彼女はいた。
ピンク色のスーツとメットを見に纏い、戦士でありながらやや細い体躯。手にした剣のような武器で、怪人の爪を受け止めている。
「……っ、このっ!」
彼女は怪人の爪を力任せに押し遣り、相手がふらついたところに強烈な蹴りを喰らわせた。後ずさったところに、武器でとどめを刺す。
今回は巨大化しないタイプだったのか、とどめを刺してしばらくしても、何も起きない。周囲の安全を確認してからピンクは変身を解いた。
十七、八歳の少女がその素顔を現し、長い髪を風になびかせる。メットの中が暑かったのか、ふう、と暑そうに息を吐いた。
そして、誠の方に向き直ると腰を下ろし、誠の顔を覗きこむ。
「君、大丈夫? 怪我とかしてない?」
可愛いお姉さんに顔を覗きこまれてドキドキしながら、誠は言葉無く頷いた。すると、彼女は「良かった!」と笑い、そして誠の頭を撫でた。
十二歳にもなって頭を撫でられるのは、やや気恥ずかしい。けど、不思議と悪い気持ちはしない。
されるがままに撫でられていると、彼女はやがて撫でるのを止め、誠の肩をぽんっと叩いた。
「あんなに怖い目に遭ったのに、君、泣かなかったわね。強いんだ!」
そう言われて、誠は少しだけ顔を赤くする。普段の誠は、どちらかと言えば泣き虫だ。ただ今回は、泣くのも忘れてしまう程に怖かった。それだけだ。
なのに彼女は、「強い強い」と、何度も褒めてくれる。
「その……僕は強くないです。あんな怪人を一人でやっつけてしまう、お姉さんの方が……」
照れながら言うと、彼女は「ん?」と首を傾げた。誠の言葉が、さり気無く自分を褒めている事がむず痒かったのか次第に彼女も照れ臭くなったようだ。「えへへ」と笑いながら、頬を染める。
「あのね……」
そして「上手く言えないんだけど……」と前置きをしてから、彼女は言った。
「強さって、戦いの強さの事だけを言うんじゃないと思うわよ。泣かない事、誰かを素直に褒める事、誰かを喜ばせる事ができる事、誰かを応援する事……全部全部、強いって言えると思う」
そう言って、彼女は笑う。そんな事を言える彼女は、やっぱり強い、と、その時の誠はぼんやり思ったように思う。
そして、ぼんやりしたまま、気付けば誠は、彼女に向かって問いを発していた。
「あの……お姉さんの名前は、何ていうんですか?」
訊かなくても、知っているのに。戦隊最年少で可愛いと評判の彼女の名前は、テレビでもよく見掛けるのだから。
だけど、それでも。誠は、彼女の口から直接名前を聞きたかった。何故その時そう思ったのかは、未だにわからないままだ。
彼女はきょとんとし、そして楽しそうに笑うと、もう一度誠の頭を撫でた。
「桃子よ。世良桃子。これからも、君達が平和に暮らせるように頑張って戦うから……だから、君も何かを頑張ってね。勉強でも、運動でも。やりたい事をやれるように、好きな人を守れるように。ね?」
たしかこの時は、素直に頷いたと思う。そして、去っていく世良の後姿を、いつまでも名残惜しそうに眺めていた。
その日から、誠は早速勉強を頑張り始めた。彼が知識や技術を大量に身に付け、戦隊の仲間として再び世良と顔を合わせたのは、それから約十年後の事である。