縁の下ソルジャーズ緊急出動!
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「このクッソ忙しい時だってのに、一ヶ月現場禁止だってよ、お前」
不機嫌そうな顔と声で、岩村が言った。ただし、岩村が不機嫌になっているのは誠に対してではない。単純に結果だけを見て処分を下した、上に対しての不機嫌さだ。
「……仕方ないです。戦闘中は作業に出ない、っていうルールを破りましたから。それに、試作品とは言え、機械を一台駄目にしてしまったわけですし……」
何かペナルティを課さなければ、組織全体が世論に支持してもらえなくなる。税金で運営している以上、ある程度世間への配慮は必要なのだろう。
そう言うと、岩村は「お人好しだなぁ、お前は」と、表情を緩めて苦笑した。
「まぁ、お前がそう思えるんなら、その方が良いだろ。メンタル的にさ。……幸い、お前自身に怪我は無かったわけだし。俺達も、お前が現場禁止になった事で得する事を何か考えて、ポジティブに思えるようにするか」
「僕が現場禁止で得する事……ですか?」
そんな事、何かあるのだろうか? ただでさえ人手不足で作業が遅れている状態。それに拍車をかけるだけで、良い事などは……。
「例えば、俺達の分まで報告書を作って提出しておいてくれるとか」
あった。
「ほら、報告書書くの、結構面倒臭ぇしさ。あれが無ければ一日の作業を一グループにつき三件か四件増やせるし、夜も早く帰れるんだよな」
「……まぁ、そうですよね」
「あ、それと格納庫に戻ってきた機体の整備! あれも地味に時間食うんだよ。戻ってきて、予備の機体で出掛けてる間にお前が整備しといてくれたら、すっげぇ助かる」
「……あ、そういう仕事なら、喜んで」
誠が思わず嬉しそうに言うと、岩村に「嬉しそうにすんじゃねぇ」とデコピンされた。痛そうにしている誠に、岩村は今度は呆れた顔を見せた。
「まぁ、思ったよりは元気みたいで良かったよ。落ち込んでんじゃないかって、結構心配だったからな」
そう言うと、岩村は誠の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ちょ……何するんですか! 子どもじゃないんですから、やめてくださいよ!」
「子どもじゃなくても、俺より年下だろ? 良いから、こういう時は素直に可愛がらせてくれって」
そう言われると、何やら悪い気はしなくて。されるがままに、誠は頭を撫でられ続けた。
岩村は、誠が落ち込んでいるんじゃないかと言った。それは、そうだ。たしかに落ち込んでいる。岩村が声をかけてくれるまでは、思考がぐるぐるしていてドツボにハマりそうだった。
理由は明白。自分が取った行動のせいで戦士達を困惑させ、力付けるどころか、逆にピンチに追い込んでしまったから。
誠が余計な事をしなければ、いつも通り少々被害を出しただけで戦闘は終わっただろう。誠のせいで、通常よりも大きな被害を出してしまったとしか言いようが無い。しかも、前回の発電所破壊と比べても、大小を決めかねるほどの被害だ。
そして、今回のこれが決め手となって。
ピンクを担当する戦士の交代が現実的になってきたという事だった。