13月の狩人
第二部
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「無理じゃと? お前はまだそんな事を言っておるのか、マルレーネ?」
厳しい声音と責めるような口調で問われ、マルレーネはびくりと怖がった。
「け、けど、本当に無理です。そんな責任重大で怖い事、私にはできません、おじじ様……!」
おじじ様、と呼ばれた相手はため息を吐き、首を横に振った。
「何度も言うたじゃろう? 次の世代を担う者達の中で一番魔力を持っており、素質があるのはマルレーネ、お前じゃと。何にも染まっていない、純粋な白い姿がその証拠じゃて」
「そんな……たしかに、魔力が多いかもしれませんけど……。けど、それだけで適性があると言われても……」
嫌です、嫌です、やりたくないです、勘弁してください。
拒否の言葉を繰り返すマルレーネに、〝おじじ様〟は二度目の溜め息を吐いた。先ほどよりも深くて長いその息に、マルレーネの顔が強張る。
「どうやら、お前には覚悟も、このお役目が我ら一族にとってどれほど大切なのかの理解も備わっておらんようじゃな。魔力は高いというのに、何という半人前か……」
そう言って、縮こまるマルレーネに「……と、すれば」と冷たい視線を投げかける。
「今年は、お前も十三月の世話になった方が良いかもしれんなぁ」
ひっ、と。マルレーネは短く悲鳴をあげた。十三月の世話になる……それが何を意味するのか、知らないマルレーネではない。
「そんな……脅かさないでください、おじじ様! 十三月に呼ばれたりしたら……私、私……生き延びる自信なんか無いです!」
「死んだなら死んだで、それまでの事じゃ。とにかくお前は、その甘ったれた性格を何とかせねばなるまいて。十三月に呼ばれれば、寧ろ僥倖というものじゃ」
そう言って、マルレーネの腕をむんずと掴む。
「痛い! おじじ様、何するんですか!?」
「今から、お前を南の砂漠へ連れていく。氷響月の一日には、まだ間に合うじゃろう。お前が十三月に呼ばれれば、目覚めた時には南の砂漠。最も過酷な地で十三月を過せば、その根性も少しはマシになるじゃろうな」
青褪めた顔で、マルレーネはぶんぶんと首を横に振った。
「無理です! 南の砂漠には、怖いモンスターがたくさんいるんですよ! そんなところに行ったら、十三月に呼ばれなくても死んでしまいます! 無理です!」
叫んでも、マルレーネの言葉は彼に受け入れられない。腕を引っ張り、南の砂漠へと強引に連れていく。同族の妖精達も、〝おじじ様〟と同意見なのだろう。誰一人として、マルレーネの擁護をしてくれる者はない。
それでも、マルレーネは必死で叫び続けた。
「ごめんなさい、おじじ様! 許してください! 私には本当に無理です! 怖いです! ごめんなさい! ごめんなさい!」
ごめんなさい、ごめんなさい……。
その言葉を、彼女はただひたすら、繰り返し続けていた。