光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―





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「さて……とりあえずラースまで来たけど……これからどうする?」

塔を降り切ってから、シンが問い掛けた。

「シンは? どうしようと思ってるの?」

少しだけ考えて答が出なかったのか、リノが問う。

「私は……そうだな。トルスとラースが重なっている時間には限りがあるわけだし、疲れるからできればトーコク遺跡の世話にはなりたくない、かな……」

「それはつまり……ちまちまと回りくどい事はせず、一気に親玉を叩いて時間短縮を狙おうって事か?」

フェイの言葉に、シンは頷く。

「雑草を抜く時は根元から、ですわね」

「だが……大将格を狙うにしても、候補は三か所あるぞ。ゴドの神官レルグ、サブトの副王、それにシューハク」

リアンが言い、ウィスが「それなら……」と呟いた。

「僕は、サブトに行きたい、かなぁ……」

「……理由は?」

「現時点で、シューハクに行くのはあまり意味が無いと思う。シン……前にリアンにこう言ったんだよね? シューハクの人全員が繋がっているのなら、何も囮を使って王様の目を逸らし、準備をする必要なんて無い。シューハクの強力な魔法があれば、世界を抑えるのなんてそんなに難しい事じゃない。それをしなかったのは、シューハクの中でも王様派と副王様派があるから。力が拮抗して双方ろくに動けないのか、副王様派は数が少なく不利だから隠れて動いているのか……」

シンが頷く。

「後者であれば少なくともシューハクに行って僕達が手出しをする必要は全く無いし、前者でもとりあえず大丈夫。わざわざ一番厄介な敵がいる場所で重要な計画を進めたりはしないだろうしね」

「……そうだね。シューハクで脅威なのは住民の魔法と、保管されている資料だから。土地そのものには重要性は無いと思う。王様派が資料をちゃんと守っていてくれる事前提で話を進めるなら、残る脅威は住民の魔法。それも、戦場で使わなければ意味は無い。なら、私達がシューハクへ行く必要は無い」

「そうなると、ゴドへ行くかサブトへ行くかって話になるわけね? それで、ウィスくん? どうしてその二か所のうち、サブトへ行こうと思うわけ?」

「まず非常に個人的な事なんだけど、ゴドには孤児院があって、僕が勉強を教えている子ども達がいる」

「あぁ……」

一同は即座に、納得して頷いた。

「ガキどもを人質に取られたら……って事か」

「ウィスの教え子だから……少なくともウィスは戦えなくなるよね。かく言う私も、一日だけとは言えあそこの子達には勉強を教えているから人質に取られるとやり辛い」

「ですが……ウィスは、サブトでも……大学で、講義を……していた……筈では?」

「大学の学生はその講義を受けている時以外は所在がはっきりとしないから狙うに狙えないし、何より週に一コマだけで繋がりも薄い。孤児院のガキどもと比べたら、思い入れはあまり無いんじゃないのか、ウィス?」

リアンに言われ、ウィスは困ったように苦笑した。

「学生達には悪いけど、そうなんだよね……。それどころか、数が多過ぎて顔と名前が一致しない、もしくは顔を見ても思い出せない学生までいるくらいだよ……」

「……そういう奴って、サボってるんじゃないか? 僕だったら、そんな奴人質にされてもあんまり困らないけどな」

「誰であっても命は大事ですけど、やっぱり人質としては微妙ですよね……」

「とにかく、それが一つ目の理由。二つ目は、ゴドとサブトの位置関係」

「あぁ……」

アストが、頷いた。思い当たる節があるようだ。

「確かに……先に、ゴドへ……行くと、サブトから、兵を……出されたら……挟み撃ちに、されて、しまいますね……」

「そうか。サブトは周り三百六十度草原だから、いざという時逃げ出し易い。けど、ゴドは周りが海に囲まれている上に……入る為には闇の森を通らないといけない」

サーサの回答は当たっていたらしく、ウィスが「そう」と頷いた。

「闇の森の中を通るには、一本しかない道を通らなきゃいけない。一歩でも道を外れたら遭難すると言われているぐらいだからね……道を抑えられたら、どうしようもない」

「なるほどな」

フェイが納得し、シンも頷いた。

「じゃあ、まずはサブト。そこで……できれば兵器を完膚なきまでに破壊するとか、副王が頼りにしている将軍格の人達に勝負を挑んで負かすとか……とにかく、副王が世界の支配を諦めざるを得ない行動を起こす。ゴドへ行くのは、その結果次第。……そういう事で良いかな?」

全員が「異存は無い」と頷き、一同はサブトを目指して歩き出した。







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