光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―
38
「……っ!」
思わず心臓の辺りを掴み、ウィスは目を見開いた。
天井が見える。そして、自分の顔を覗き込むチャキィの顔が見えた。
「ウィス先生! 大丈夫ですか!?」
「チャキィ……」
ぼんやりとしながら呟き、首だけを動かしてみる。
「ここは……」
「ホースさんの診療所です。ウィス先生、フェイって人に思いっきり殴られて気絶して……あの、本当に大丈夫ですよね? お腹……」
「あ……うん。大丈夫……」
頷きながら腹に手を当て、そこでハッとする。
「そうだ! リアン……リアンは!?」
「……」
ウィスの問い掛けに、チャキィは顔を暗くして俯いた。
「神官リアンは、まだ見付かってない。それに、シンも……」
どこからか、聞き覚えの無い声が聞こえてきた。ウィスは上半身を起こし、首を巡らせてみる。声の主は、壁にもたれかかっていた。短く刈った赤毛に、グリーンの瞳の少年だ。その横には、シンとずっと行動を共にしていた少女が立っている。確か、リノという名前だった筈だ。
「……君は……?」
「僕は、サーサ・ホーティン。お前の名前はチャキィから聞いたよ。ウィス・ラースタディ」
「……」
不安そうな顔をして黙り込んだウィスに、サーサは言った。
「チャキィにはもう言ったけどさ、僕はミラージュの……こっちの世界の人間じゃない。お前らと同じ世界の人間だよ」
「……え!?」
驚いて目を見開くウィスに、サーサは溜息を吐いた。
「正直、何て言ったら良いのかわからない。お前と神官リアンが友達同士だってのはゴドで聞いた。あの鬼神リアンに友達がいるって事にまず驚いたけど、とりあえず今はそれは良い。友達が目の前で湖に落ちたんだ。それで半狂乱になるのは、まぁ、わかる」
そこで一旦言葉を切り、サーサはウィスの顔をジッと見た。
「けど、世界を滅ぼすっていうのは感心しない。例えそれが自分達の世界を守るためで、僕がお前達と同じ世界の人間だとしても、だ。そう考えると、悪いけど神官リアンがあんな目に遭ったのは天罰って奴なんじゃないかって思えちまう」
「なっ……そんな事は無い! 僕はともかく、リアンは自分の意思でやっていたわけじゃないんだ! リアンは神殿に命令されて……」
「そうなのかもしれない。けど、僕達はそんな事は知らない。それに、チャキィもその辺の事情までは知らなかったみたいだ。だから、敬愛する先生がさっきから僕に言いたい放題で言われているのに反論の一つもできないでいる」
「……」
「ウィス先生……」
再び黙り込んだウィスの顔を、チャキィが心配そうに覗き込んだ。ウィスは無理矢理笑顔を作り、その頭を撫でる。だが、却ってその顔は泣きそうに見えた。
「はー……何だかなー……」
サーサは頭に手を遣り、溜息を吐いた。
「お前さー……いや、お前らさー、か。一人で背負い込み過ぎなんじゃないか?」
「え?」
思わぬ言葉に、ウィスはサーサを見た。
「寝てる間、お前ずーっとうなされながら神官リアンの事呼んでたぞ。リアン、リアンって。あと、ごめんとか、僕のせい、とか」
「……」
「だからさ、お前らが本当に仲が良いって事はわかった。あと、昔何かあったっぽいって事も。それに、お前ホウツ氷海で言ってたよな。もう二度とリアンを犠牲にしたくない、死なせたくないし、苦しませたくないって」
そこで、ウィスはチャキィの顔を見た。半狂乱の状態だった為、正直、よく覚えていない。チャキィが頷くのを見て、バツの悪い顔をしながらウィスは視線をサーサに戻した。
「何があったか知らないけどさ、それでお前、神官リアンに何か遠慮みたいな事でもしちゃってるんじゃないのか? ……神官リアンだけじゃない。チャキィにも、アストにもホースにも。遠慮して、できる限り巻き込まないように大事な事を隠してるように見える」
「……」
「僕が見る限り、神官リアンもそうだった。無茶な戦い方をしてでも、仲間を守ろうとしてた。なのに、お前のあの錯乱っぷり……神官リアンがああいう行動を取るって、全く予想してなかったみたいだった」
「……そうだね。リアンが仲間を守るなんて、思ってもいなかったよ……」
力無く、ぽつりと呟いた。すると、サーサはキッとウィスを睨み付ける。
「それってさぁ、相手の事、理解してなかったって事だろ!? 理解してたら、あんな展開になったら神官リアンは身を挺して仲間を庇うかもしれない、そうなったら嫌だから避けられる戦いは回避したい、その為にも相手がどうしたいのか聞いて危ない事はしないようにしたい、って考えないか!?」
「それは……うん、そうだね。あぁなるってわかってたら、元の世界に戻る事を諦めてでも……この世界を滅ぼすって任務を放棄してたと思う……」
ウィスの力無い言葉に、サーサは三度溜息を吐いた。
「お前さー……本来なら、こういう世界を滅ぼすとか、そういうの絶対に嫌がるタイプだろ? なのに実行しようとしたのは、神官リアンが関わっていたから。違うか?」
ウィスは、肯定の意味で首を横に振った。そうだ。リアンが関わると知ったから、本当は世界を滅ぼしたくはないが共に行く事にした。
「けどさ、お前……何で神官リアンがこの任務を受ける気になったか、訊いたか?」
「それは……訊いてないよ。けど、リアンは神官だ。神官にとって、神殿の命令は絶対だから……」
「神官のクセに鬼神とまで呼ばれちまうような奴が、本当にそれだけの理由で命令に従うのか? あの人、気に入らない任務なら「断る」とか言って簡単に放棄しそうに見えるぞ?」
「……そうかも」
ウィスの言葉に、サーサは「だろ?」と言った。
「戦闘狂だから、戦う為ならどんな任務でも受けるって線も捨て難いけどさ。それはそれで、腑に落ちない部分があるんだよな。仲間を庇ったり、後衛でサポートに回ったり。って事は、神官リアンは神官リアンで、何か事情があってこの任務を受けざるを得なかった、って考えられないか?」
「事情?」
「それがどんな事情なのかまでは、僕にはわからない。けどさ、それって何となく、お前が絡んでるんじゃないかなって気がするんだよな」
「……!」
ウィスの顔が、緊張で強張った。またも半狂乱になったりしないか気を付けつつ、サーサは言う。
「お前は、任務に付く神官リアンを守るつもりでこの件に関わった。けど、実は神官リアンもお前を守るつもりでこの任務を引き受けた。もし、そうだとしたら……お前らは二人とも、友達を守る、仲間を守る、自分以外の奴に辛い思いはさせないって考えながら戦ってたって事にならないか? ……それってさ、無駄だよな。誰も戦いたがってないんだからさ」
「……!」
「お前らが早い段階で互いの気持ちや意図を確認し合う事ができていれば、誰もが戦わなくて済んだ。そうすれば、あんな事にならなくても済んだんじゃないのか!?」
最後は怒鳴るように、サーサは言った。そして、大きく息を吸い、吐くと出入り口へと向かう。
「……悪い。ちょっと言い過ぎた。僕も、目の前でシンが湖に飛び込んで動揺してるのかもしれない。……頭、冷やしてくる」
そう言って、サーサは外へと出掛けて行った。部屋にはウィスとチャキィ、リノが残される。
「えっと……」
今まで黙って事の次第を見ていたリノが、遠慮がちに口を開いた。
「ごめんなさい。サーサが、その……」
「……良いよ。彼の言う通りかもしれない。僕がリアンを守る為にこの件を引き受けたってのは図星だったし」
苦笑して、ウィスはリノに向き合った。
「何度か会ったけど、こうやって戦わずに向き合うのは初めて、かな?」
「はい。……えっと、リノ・クラドールです。トーハイの治療院で働いています」
「ウィス・ラースタディ。知ってるみたいだけど、ゴドの孤児院で勉強を教えながら、考古学者をやってる。それで、あの……」
少し迷ってから、ウィスは再び口を開いた。
「今回の事は、悪かったって思ってる。いきなり襲い掛かって、別の世界に飛ばしたりして、おまけに、君達の仲間まで……」
「いえ……シンなら、きっと大丈夫です。今までも散々無茶を繰り返してきましたけど、それでも無事でしたから。だから、今回も……」
そう言って、リノは笑って見せた。その笑顔に罪悪感を覚え、益々申し訳なくなりながらウィスは問うた。
「……それで、あの……君とサーサの他にも、仲間がいたよね? 僕を殴ったフェイって人と、トーコク遺跡の塔で乱入してきた人……」
「ルナですね」
仲間の名を告げ、リノは少しだけ遠くを見るような目をした。
「フェイさんとルナなら……今、王都ミャコワンへ行っています。……あなたの仲間の、アストさんと一緒に」
「アストも!?」
驚き、ウィスはチャキィを見た。チャキィは、黙ったまま頷いて見せる。
「三人で……ミャコワンへ何をしに……?」
不安を隠せないまま、ウィスは問うた。自分達はこの世界ではお尋ね者だ。それが王都へなど行ったりしたら、自分から牢へ入るようなものではないか。
「まさか、アストまで僕達を庇って……自分だけが捕まろうと……?」
「違いますよ」
苦笑しながらリノが首を横に振った。
「三人は今、シューハク遺跡島へ渡る許可を得る為にミャコワンへ行っているんです。陛下の護衛剣士であるフェイさんと、シューハク遺跡島の住人であるルナ。それに、ウィスさん達がこの世界に来た理由を説明する事ができ、更にウィスさん達にもう敵意は無いと証言してくれるアストさん。この三人で頼み込めば、あの陛下なら許可を下さるかもしれないと、フェイさんが……」
「けど、何故今シューハク遺跡島に? 僕はもうこれ以上君達と戦う気力は無いし、チャキィ達だって、多分そうだと思う。僕達にやる気が無いとなれば、君達も戦う理由は無い。なら、今更シューハク遺跡島に行く必要なんか……」
「シンもリアンさんも、シューハク遺跡島にいますから」
待ち合わせの場所でも伝えるように、リノはさらりと言った。そのあまりのアッサリさに一瞬呆けた後、ウィスは言葉の内容を咀嚼して呑み込み目を見開いた。
「……え!?」
ウィスの様子に、リノはくすくすと笑って見せる。
「さっきも言いましたけど、私達の仲間のルナという子は、シューハク遺跡島の出身なんですよ。彼女はシューハク一の魔法の使い手だからという理由で、ミラージュに関わる一部始終をその目で見てくるという使命を帯びて島から一人出たそうです。けど、知っての通りシューハクとウォートン、サイスイを結ぶ船はありません」
リノの言葉に、ウィスとチャキィは頷いた。
「じゃあどうやってここまで来たのかと訊いたら、彼女、こう言ったんですよ。小舟に乗った状態で水の魔法を使い、その勢いで湖を渡ったって言うんです」
「なるほど。そんな手もあったんですね!」
感心したようにチャキィが頷いた。するとリノが「危ないから、真似しちゃ駄目よ」と言う。子ども扱いされてチャキィは少しむくれた。
「シンは湖に飛び込む前、わざわざフレイムウォールを使って氷を溶かしました。普通に考えたら、危険なだけなのに。けど、氷が溶けて割れたお陰で、ウィスさん達が運んでいた筏がリルンベ湖に落ちた……。シンは、それを狙って魔法を使ったんじゃないかと思うんです」
「……あ!」
リノの言わんとする事がわかったのか、ウィスは声をあげた。すると、リノは頷いて言葉を続ける。
「ルナほど強くはありませんが、シンも風や水の魔法は使えます。湖に飛び込んでリアンさんを助けて……それから筏に這い上がって。あの時の風向きや水の流れを考えれば、ホウツ氷海やウォートン周辺の岸辺に向かうよりはシューハク遺跡島へ行く方が負担は少なく済んだと思います。ですから、筏に乗った後はシューハク遺跡島へひとまず向かったんじゃないか……私達は、そう考えています。……勿論、二人とも死なずに筏へ這い上がれていれば、の話ですけど」
「だから、シューハク遺跡島へ行く為の許可を……」
リノは、にっこりと笑って頷いた。
「えぇ。二人を迎えに行かないといけませんから」
「やぁぁぁぁっ! 何コレ何コレ!? リノくん、ちょっと来てぇぇぇぇっ!」
突如辺りの空気をつんざくような叫び声が聞こえ、一同はぎょっとした。声は、キッチンの方から聞こえてくる。
「ちょっと、どうしちゃったのホース!? ……もう! あの子、一体何やってるのよ!?」
少し怒った顔をして、リノはキッチンの方へと駆けて行った。一応、ホースの方がリノよりも年上の筈なのだが……。
リノがいなくなり、部屋にはウィスとチャキィだけが残された。
「……」
妙な沈黙が、辺りを支配する。
「あっ……あの! ウィス先生!」
先に沈黙を破ったのは、チャキィだった。
「……何?」
ゆっくりとウィスが尋ねると、チャキィは「えーと」を十回ほど繰り返して言った。どうやら、言いたい事を頭の中でまとめているようだ。
「あのっ! ボク思うんですけど! リアンさんならきっと大丈夫ですよ! 絶対に死んでません! だってあの人、鬼神と呼ばれるほどの戦闘狂なんですよ!? 死ぬ時は最強の剣士と刺し違えて死にたいとか考えてそうな人なんですよ!? そんな人が、仲間をかばって大怪我した挙句に湖に落ちて死亡なんて有り得ませんよ! もしそんな事になったら、あの人は絶対に死んでも死にきれなくてその辺をうろつきだします! 戦わせろー、戦わせろーって恨み事を呟きながら、通り掛かった剣士に誰かれ構わず戦いを挑もうとすると思います! すっごく迷惑だと思います! けど、今のところそんな迷惑な話は聞きませんから、リアンさんは生きてると思います!」
「……リアンが聞いたら、怒って殴りかかってくるかもしれないよ……?」
チャキィの言い様に、ウィスは思わず苦笑した。すると、チャキィは至極真面目そうな顔でまっすぐにウィスの目を見詰めた。
「良いです! 生きていてくれるなら、怒られようが殴られようが、すっぱい木の実を口いっぱい詰め込まれようが……ボクは全然構いません!」
「チャキィ……」
捲し立てるチャキィに、ウィスは言葉を失った。すると、チャキィはハッとして、それから「ヘヘッ」と何かを誤魔化すように笑って見せた。そして、キッチンの方を向く。
「……ボクも、キッチンの様子を見に行ってきますね。リノさんだけにホースさんの面倒を見させるわけにはいきませんから。……何かあったら、呼んで下さい」
そう言って、チャキィはキッチンへと入っていった。すると、入れ違いでホースがそこから出てくる。手にはマグカップを二つ持っている。
「お。お目覚めね、ウィスくん! とりあえず、はい、コレ! もう落ち着いてるみたいだけど、これ飲んで落ち着くと良いわ!」
言いながら、ホースは片方のマグカップをウィスに手渡した。受け取って覗き込んで見れば、中にはまっ黒でドロッとした液体が並々と注がれている。そして、そこはかとなく焦げ臭い。
「……」
一度、ホースの顔を見る。その顔は、「早く飲んでくれないかなぁ」と期待している顔だ。ウィスは覚悟を決めて、黒い液体を口に含んだ。
「……苦っ!」
一口だけ飲んで、思わず顔をしかめる。それを見て、ホースもマグカップに口を付けた。そして、同じように顔をしかめる。
「……本当だわ。凄く苦い……でもって、凄く不味い……」
「ホース……これ、何?」
「ココア」
涙目になりながら問うウィスに、ホースは情けなさそうな顔をして言った。
「やっぱり私、料理はてんで駄目ねー。……あーあ、リアンくんの作ったココア、美味しかったなー……」
「……うん。リアンの作ったココアは、本当に美味しかった。勿論、他の料理も。本人は、料理を褒められたら複雑そうな顔をしてたけど」
苦笑して頷き、ウィスはもう一口ココアであるらしい黒い液体を飲んだ。やはり、凄まじく苦くて不味い。
「あの美味しいココアをもう一度飲む為にも、早く迎えに行ってあげないとよねー」
「……ねぇ、ホース」
マグカップを両手で持ったまま、ウィスはホースの名を呼んだ。
「? 何?」
ココアを飲み、またも顔をしかめてからホースはウィスの顔を見た。
「筏を作り始めた頃にさ、ホースは僕に言ったよね? 魔法を全く使えず、使った事も無いのは嘘だろうって」
「言ったわね。……そう言えば、あの時は結局はぐらかされちゃったわよね」
ホースは頷いた。そしてまたココアを一口飲み、顔をしかめる。例え失敗作であっても食材を無駄にはしない主義のようだ。偉い。
「何で、わかったの? 僕が前は魔法が使えたって事」
「んー……健康診断で触診してる時にね、ウィスくんの体に魔力の残滓がある事に気付いたのよ。知ってる? 魔法を使った時に練り出した魔力って、少しだけど体に付着したまま残るのよ。魔力を使う事が上手ければ上手いほど残滓は薄く少なくなるけど、それでも完全に残さないで使い切る事はまずできないって言われてるわ。これが多ければ多いほど回復魔法が効きにくくなるもんだから、医者としては結構気になるもんなのよ」
「そうなんだ……」
感心したようなウィスの言葉に、ホースは頷いた。
「この魔力の残滓って奴が、また洗ったら落ちるような物でもないのよね。攻撃だろうが回復だろうが、何でも良いから魔法をぶつけて無理矢理中和するか、時間が経って自然に消えて行くのを待つしかないわ」
「それが……僕の体にはまだ残っていた?」
「そう。本当にほんの少しだったけどね。それで、本当は魔法が使えるのに隠してるんじゃないかって思ったの」
「今は本当に使えないよ。子どもの時には確かに使えたし……使えるどころか、得意だったくらいだ。けど、十年くらい前に急に使えなくなった。死にかけた後だったから、それが原因なんじゃないかとは言われてるけど……はっきりとした原因は今でも不明のままだよ」
ウィスの言葉に、ホースは目を細めた。
「ふーん……その時、診察した医者は何て?」
「僕は直接その医者から聞いたわけじゃないけど……話を聞いた神官によると、僕から全く魔力を感じなくなったって……」
「そう……」
呟いてから、ホースはマグカップの中身を一気に飲み干した。顔を強烈にしかめてから、近くにあった台にカップを力強く置く。タン! という乾いた音が響いた。
「ねぇ、ホース」
「何?」
少し躊躇ってから、ウィスは問うた。
「もし僕が、今でも魔法を使えたらさ……違う結果になってたと思う?」
「わかるわけないわ」
「……そうだよね……」
頷き、ウィスはマグカップを強く握った。そんなウィスに、ホースは言う。
「けど、これはわかるわよ。このままウジウジしてたら、何も変わらない」
「……」
ホースの言葉に、ウィスは暫し沈黙した。そして、マグカップを口へ運ぶと、中の黒い液体を一気に胃に流し込む。そして、ホースに倣ってマグカップをタン! と台に置く。
「そうだよね。周りの状況が変わるのを待ってたら駄目だ。僕から動かないと……何も変わらない!」
その目には、最早不安や諦め、絶望の色は無い。
「アスト達が戻ってきたら、すぐに出発しよう。シューハク遺跡島へ、リアン達を迎えに行く!」
ウィスの言葉に、眼前のホースが頷いた。声は届いていたのだろう。キッチンではリノとチャキィが、窓の外では壁にもたれかかったサーサが、同じように頷いた。