光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―
31
「今度はセツファン、か……」
随分久しぶりのような気がする自宅に入り、ベッドに座り込んでシンは呟いた。この何日かの間に、自分の世界もミラージュも関係無く、随分とたくさんの町を回った。トーハイからミャコワン、トーコク遺跡に、カホン遺跡。フジャマ、シャンカイ、ゴド、サブト、サイスイ。そしてまたシャンカイに行き、トーハイに戻ってきた。そして次はセツファン。ひょっとしたら、更にその後はレイホワだ。
「これでウォートンと……シューハクにも行ったらある意味世界一周だよね」
独り言を言い、それから少し間を置いて、シンは窓際に本が出しっ放しになっている事に気が付いた。ミラージュが現れる前……トーハイの浜辺に最初にモンスターが現れた時に読んでいたお気に入りの神話の本だ。騒ぎを聞き付けすぐに家を飛び出し、ミャコワンに行く事が決まってからは慌てて準備をして出掛けた。だから、片付けるのを忘れていたのだ。
本を拾い上げ、シンは薄らと積もった埃を手で払った。開きっぱなしになっていたページを閉じ、窓の外を見る。空には、相変わらず闇の塊のようなミラージュが見える。
「夢じゃ……ないんだよね。本当に、私はミラージュへ行ったんだ……。ミラージュは、本当にあったんだ……」
ぐっ、と、本を持つ手に力が入る。
「けど、行くだけじゃ駄目だった……。今何が起きているのか……そのヒントを探すだけで精一杯で、他の事は何もできなかった……」
家の中は、静まり返っている。時々、潮騒が聞こえた。
「……そうだよね。ミラージュにいるわけがないんだ。行っただけで何とかなるような話じゃない。そうでしょう? 父さん、母さん……」