光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―





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「この世界とミラージュが完全に出会った時、二つの世界は滅びる、か……。確かに、指導者の立場を考えれば共倒れになるくらいならもう片方の世界を滅ぼしてやれって思うかもね。自分達が手を出しても出さなくても相手の世界が滅びるなら、自分達だけでも生き残る道を選ぶのは割と自然な事だと思うよ」

神殿を離れ、ここなら聞かれないだろうという場所まで移動してからシン達はリノとルナの話を聞いた。

「けど……完全に出会った時っていうのは、どんな時なのかしら?」

「決まっていますわ。前にもお話ししましたが、シューハクにはミラージュに関する様々な文献が残っていますわ」

「それによれば、俺達が済む世界やミラージュを含めて、色々な世界が存在している。で、それらはそれぞれ決まった軌道上を移動しているって事だったな」

「えぇ。その中でも、私達の世界とミラージュ……この世界は、非常に近い軌道上を移動していますの」

「……そうか。軌道が近いという事は、二つの世界はすれ違ったり追い越したり、極端に接近する事がある。近いとは言っても同じ軌道にあるわけじゃないから、ぶつかって大事故が起こる事は無い。けど、二つの世界が上下なり左右なりで重なり合う事はあるわけだ」

サーサの言葉に、ルナとシンが頷いた。

「つまり、この世界とミラージュが完全に出会う時というのは、二つの世界が完全に重なり合う時……という事だね。それにしても……出会ったら滅びるなんて、怪談みたいだよね」

「あぁ、あの同じ顔をした人間と会うと何日か以内に死ぬって奴か。あれ、納得いかないんだよな……。世界は広いんだからさ、同じ顔をした奴くらい、どっかにいるだろ。それと会っただけで死ぬなんて、おかしいじゃないか」

「そうよね。私も、よく考えるとそれはおかしいと思うわ」

リノが同意すると、ルナが首を傾げた。

「あら、怪談話ですもの。そんなに深く考えなくてもよろしいのではございませんか? それよりも、私はあの時聞こえてきた真の計画、という言葉が気になりますわ」

シンが、頷いた。

「確かにね。ウィスとリアン、それに……アストって人はどんな人なのか知らないけど、彼らは皆、利用されているだけみたいだ」

「間に合わなければミラージュはどうでも良いとか、切り捨てるとか……どうにもあまり良い利用のされ方じゃなさそうだな。捨て駒とか囮とか、そんな感じだ」

フェイが顔をしかめ、それにつられるように周りもまた顔をしかめた。

「けど、二回会った感じでは、あの二人はそうそう簡単に利用されるような人間じゃないと思う。それに、孤児院で聞いた限りではウィスは学者として有能みたいだし、リアンの戦闘能力もかなり高い。あの二人を囮なり捨て駒なりにしてまで進める、真の計画っていうのは、一体何なのか……」

「あのお二人に、何か神殿の言う事を聞かざるを得ない事情でもあったのでしょうか?」

ルナの言葉に、シンは「事情か……」と呟いた。

「あの二人に何か事情があるとすれば……やっぱりシュンセイ遺跡、なのかな?」

「? 何でそこでシュンセイ遺跡が出てくるんだよ?」

そこで、シンは孤児院で仕入れてきた情報を要約して話した。

ウィスとリアンは二人ともあの孤児院の出身である事。共に育った為、二人は仲が良いという事。ウィスは教師としても有能であるらしいという事。しかし、ウィスは全く魔法が使えないという事。二人とも――リアンにも、昔は子どもらしい面があったという事。子ども達の間では、子どもだけで闇の森を抜けてシュンセイ遺跡へ行き、帰ってくるという度胸試しのような試練があるという事。ウィスとリアンも子どもの頃――十年ほど前にその度胸試しをしたらしいという事。そして、ウィスはその時の事を絶対に人に話したがらないという事。

「確かに……何かありそうね」

「シュンセイ遺跡か……行ってみるか? サブトへ行く途中だし」

だが、シンは首を横に振った。

「勘……なんだけどね。今はもう、行っても何も無い気がする。前にも言ったけど、周りに神官や兵士の姿も無かったし。気にはなるけど、今は真の計画って奴を探る事が先だと思う。私達の世界をウィス達に滅ぼさせない為にもね」

シンの言葉に、一同は考え込んだ。やがて、リノが遠慮がちに口を開く。

「……わかったわ。シンの勘って、結構当たるもの。特に、遺跡が絡んでいる時には。だから、私はシンの意見に賛成よ。シュンセイ遺跡は、今行かなくても良いと思うわ」

「……長い付き合いのリノ嬢ちゃんが言うなら、そうなんだろうなぁ。それじゃあ、俺もシュンセイ遺跡は無視するのに賛成するぜ」

「僕はそういうのよくわかんないからさ。お前達が行かないって言うなら、それで良いよ」

「あら。皆様が行く必要は無いと仰るのであれば、私も行く必要は無いと思いますわ」

満場一致でシュンセイ遺跡を無視する事が決定し、シンは立ち上がりながら地図を取り出した。

「それじゃあ次は……予定通りサブトへ行こうか。王立図書館へ行けば、司書だっていうその……アストって人の事が何かわかるかもしれないし」

そう言って、地図の湖西地方……その中央に位置する場所を指差した。記された場所は言葉の通り、副都サブト。湖を頻繁に渡る事ができない王に代わり湖西地方を治める、副王が座す街だ。









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