光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―





09





王都ミャコワン――この世界の王が住まうこの都には、数万人の人間が住んでいると言われている。都の中心にある市場には世界各地から集まった食材が並び、清潔で煌びやかな衣装を身に纏った人々が品定めをしつつ練り歩いている。図書館へ行けば世界中の本が読め、日当たりの良い公園へ行けば季節の花々を愛でて楽しむ事もできる。

穏やかで、優雅で、活気がある……そんな不思議な都に足を踏み入れ、リノは目を丸くした。

「すごい……話には聞いてたけど、大きいのね、王都って……。それに、トーハイほどじゃないけど道が複雑に絡み合ってて、おまけに人が多くて……迷っちゃいそう……」

「わかるよ。私も初めて来た時は同じように思ったから。マッピングのし甲斐があるよね。けど、今みたいに急いでいる時はちょっと煩わしいかな?」

苦笑しながらも、シンはどんどん歩を進めて行く。その行き先が次第に都の中心地からそれていくのに気付き、リノは首を傾げた。

「? どこに行くの? お城は都の中心でしょ?」

すると、歩を止める事が無いままシンから答が返ってくる。

「まっすぐお城へ行ったって、門番に止められちゃうよ。王様に会うまでに身元調査だの謁見の順番待ちだのがあって、中々本題に入る事はできないと思う。そんな時間は無いからね。少しでも早く謁見できるように、近道≠使うよ」

「近道?」

不思議そうな顔をしながら、リノは都の中心部と思われる方角を見た。この都はどこにいても王城を見る事ができる造りになっているようだが、その王城がどんどん遠くなっていく。

近道どころか遠回りとしか思えない道を歩き続け、いつしか二人は大きな建物の前に出た。一見神殿のようなその建物に、シンは躊躇う事無く入っていこうとする。その後に戸惑いながら続くと、中の様子が視界に飛び込んでくる。

そこには陳列棚が壁一面に並んでいた。ガラクタにしか見えない石片、見た事もない祭具、古ぼけた書物に、何かしらの生物の標本。

物珍しく辺りを見渡しているリノに、シンは口早に説明をした。

「ここは王立博物館。世界中の歴史的価値のある物が集められている場所だよ。物が集められているだけじゃない。魔法学や、古代遺跡の研究もここで進められている……勿論、ミラージュの研究もね」

それだけ言うと、シンは受付へと足を運び、窓口の人間に向かって言った。

「私は海沿いの町トーハイより参りました、シン・トルスリアと申します。突然の来訪で申し訳ございませんが、ここの館長で王城歴史編纂室長でもあるヒスティ・ドゥーワ氏に急ぎお目通りを願います。もし用件はと尋ねられましたら、ミラージュが現れました、とお伝え下さい」








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