平安陰陽騒龍記 第二章









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昔々の、その昔。大国主神が因幡の白兎を助け、八上比売を妻にできる事ができてしまった、すぐ後の事。

今まで馬鹿にしていた大国主神――当時は大穴牟遲神に八上比売を取られてしまった兄神達は怒り狂い、大穴牟遲神を殺してしまおうなどと考えた。

そして大穴牟遲神を伯耆国まで連れていき、言ったのだ。

「この山には、大きく赤い猪がいるという事だ。俺達が山の上からその猪を追い下ろすから、お前はそれを受け止めて捕まえろ。良いな?」

兄達に逆らう事ができない大穴牟遲神はそれを承諾し、山の下で猪を待ち構える。それを確認して、兄神達は赤い猪を山の上から追い下ろした。

……いや、赤い猪ではない。

それは真っ赤に焼けた大岩で、兄神達が山の上から転がした物だった。

焼けた大岩は山を転がり落ちる事で勢いをどんどん増していく。その転がり落ちる様は、まさに突進する赤猪。……いや、猪よりも更に勢いがある。

そして、その猪……いや、焼けた大岩を、大穴牟遲神は兄神達の言いつけ通りに受け止めた。受け止めてしまった。

焼けた岩を受け止めただけでも、ただで済むような話ではない。更に、その岩は大穴牟遲神が全身を使って受け止めねばならぬほどの大岩だった。

大岩に圧され、焼けた岩を受け止めた事で大火傷も負い……大穴牟遲神は、命を落とした。

それを嘆き悲しむ、大穴牟遲神の母は高天原へ赴き、息子を生き返らせてほしいと懇願する。その願いは聞き届けられ、高天原から派遣された女神達によって大穴牟遲神は息を吹き返した。

息を吹き返したその後も、大穴牟遲神は兄神達に命を狙われた。このままでは、いつか本当に生き返る事も出来ないほど酷く殺されてしまうと感じた大穴牟遲神の母は、息子を木国(きのくに)へと逃げさせた。

木国へと逃げ出した大穴牟遲神はその後も各地を転々とする事となり、次第に力を付けて、この国を治める大国主神へと成長するのだが……それはまた、別の話。











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