平安陰陽騒龍記













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シンと静まり返っている。狭い部屋に四人もいて、しかも面子には紫苑、虎目、栗麿といった、普段は五月蠅すぎるくらい元気な面々が揃っているというのに、だ。

やがて、沈黙に耐え切れなくなったと言わんばかりに、栗麿が口を開いた。

「えっと、その……これから、どうするでおじゃるか?」

「どうするって……」

困ったように、紫苑が葵を見る。視線から逃げるように、葵は項垂れた。

「……すみません。俺が、もっとしっかりしてて、勇気があればこんな事には……」

「葵が謝る事は無いよ! 誰だって、自分に誰かの命がかかってるかもしれないって考えたら、怖くなるよ! ボクだって……もし、ボクが葵の立場で、ボクに葵や虎目、父様母様に師匠の運命がかかってるかもしれない、なんてなったら……」

そして、紫苑は一旦言葉を切り、しばらく考える様子を見せてから口を開いた。

「……ねぇ、葵。葵は、どうしたい?」

「……え?」

聞かれた意味がわからず葵が聞き返すと、紫苑は葵の目を見て。真剣な顔で言った。

「葵は、どうしたいの? 荒刀海彦に任せてでも、おろちと戦う? 邸に残って、難が過ぎるのを待つ? それとも……いっそ、京から逃げたいと思う?」

「それは……」

言葉に詰まり、しばし考え。そして、絞り出すように葵は震える声を発した。

「戦いに、行きたいです。このままだとおろちの仔が人々を苦しめるとわかってるのに、俺だけ安全な場所に隠れたり、どこかへ逃げたり……したくないです。けど……」

「足手まといになって、倒せるはずだったおろちの仔を倒せなくなってしまう……なんて事になって欲しくない?」

「……」

葵は、頷いた。その様子に紫苑は苦笑し、そして虎目に視線を遣った。

「虎目」

「にゃ?」

虎目は首をかしげてはいるが、何を訊かれるのかわかっている顔だ。栗麿は本気でわからないという顔をしているが。

「虎目の未来千里眼では、今でも見える? 直線だけで造られたたくさんの塔みたいな建物とか、自分で走る不思議な鉄の車。甘くて美味しいお菓子がいつでも誰でも食べられるって言う、千年後の未来の世界」

「あー、はっきりと見えるにゃー」

そう言って虎目は、自慢げにフフンと鼻を鳴らした。

「さっき葵が、やるとは一言も言ってにゃい、にゃんて言い出した時には、ちょーっとばかし霞んで見え難くにゃったけどにゃ。戦いたいって言葉を聞いた時から、またはっきりと見えるようににゃったにゃ。……これがどういう意味か、わかるにゃ、葵?」

「……」

しばらくの間黙り、考え。そして葵は立ち上がった。少しふらつくが、それでも先ほどのように倒れたりはしない。大きく息を吸い、吐いて。葵は部屋の外へと足を踏み出した。

「紫苑姉さん……ありがとうございます。俺、行きます!」

「そうこなくっちゃ!」

紫苑も立ち上がり、虎目と共に部屋から出る。

「まずは、三人で弓弦ちゃんを探しに行こう! きっと、弓弦ちゃんが行く先におろちの仔がいるんだし!」

「はい!」

「にゃあ!」

そして、二人と一匹は駆け出して行った。それをぽかんと見詰めていた栗麿は、ハッと我に返る。気付けば、この部屋には彼以外、もう誰一人として残っていない。

「ちょっ……紫苑、葵! 化け猫ぉっ! 麿を置いていくなでおじゃるよぉぉっ!」

慌てて立ち上がり。栗麿もまた、葵達を追って部屋を飛び出した。









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