夢と魔法と現実と










「……すまん、弥富……」

勝手におもろげな小説を書いている事にしてしまった同級生に本気で心の奥底から謝る亮介の足元に、トイフェルがふわりと姿を現した。

「……なるほど。キミが妙にアニメやゲームっぽい雰囲気に詳しいのは、あの従兄弟の影響というわけだ」

「まぁな。世間から見れば普通の、それも年下の従兄弟から影響受けるっつーのも、珍しい話なんじゃねぇかと思うけど……あいつは色んな意味ですごいよ。夢に向かってがむしゃらに驀進してるって感じでさ。寧ろ、俺なんかよりあいつが魔法使いになって戦った方が早く解決するんじゃないかって、割と本気で思う」

すると、トイフェルは「んー……」と軽く唸りながら、後足で耳の後をこりこりと掻いた。

「それは多分……無いね。彼じゃあ、魔法使いになってイーターと戦う事はできないよ」

「? 何でだよ?」

トイフェルの言葉に、亮介は首を傾げた。だが、トイフェルは難しい顔のまま、答えない。尚も沈黙が続くと、ぽつりと言った。

「いずれわかるさ。……嫌でもね」

「……だと良いんだけどな。……あー……にしても、本当にどうするんだ、俺……。時野にはああ言ったけど、大学生の男が魔女っ娘やってる小説なんてどう探せば良いんだよ? しかも、出版された物じゃなくて、大学生が趣味で書いたように見える感じの小説なんて……」

しつこく訊いても無駄そうだと判断したのか、亮介は即座に話題を切り替えた。そして、その話題が原因で頭を抱え始めた亮介にトイフェルは言う。

「悩む必要なんて無いよ。キミが書けば良いじゃないか」

「俺が? 小説を?」

怪訝な顔をして亮介はトイフェルを見た。そんな彼に、トイフェルは頷いて言葉を続ける。

「別に、一から設定を作る必要なんて無い。ボクとキミが出会った時の事。キミが初めて魔法を使った時の事。これからキミに起こる事……それを全て、文語体でノートに記していけば良いんじゃないかな? 何せキミが経験した、経験している、経験しようとしている事は、一般的には現実では起こり得ないとされている、アニメのような事態なんだからね」

「小説なー……」

言いながら、亮介はクローゼットへと足を向けた。中からスーツを取り出し、皺ができていないかチェックする。

「? どこかに行くのかい?」

「明日の準備。明日は大学で就活セミナーがあってさ。服装チェックとかアドバイスとかするから、とりあえずスーツで来いってよ」

「ふーん。大変だねぇ。まだ三年生だっていうのに、就活だなんて」

全然大変そうだとは思っていないだろう口調で呟き、あくびをしながらトイフェルは更に言う。

「まぁ、良いさ。精々頑張ってくると良い。それが、キミの将来を決定付ける第一歩にならないとも限らないんだしね」

そう言いながら、トイフェルは部屋を出てダイニングルームに向かおうとする。どうやら、時野の持参した肉じゃがを自らも食す気満々のようだ。

レンジで肉じゃがを温める間に、トイフェルは亮介に言った。

「とりあえず、従兄弟君にも聞かれたように、魔法は気を付けて使わないと大衆の視線に晒される事になる。次から武器を作る時は、同時にステルス効果も付加できるように気を付けるべきだね」

言い終わったところで、レンジがチーンと音を立てた。





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