僕と私の魔王生活
13
隠れるとしても、どこに隠れれば良いのだろうか。
奥の間に向かうメトゥスと別れてから、優音は考えつつ城内を歩いていた。
勇者達の狙いがメトゥスなのであれば、ただ部屋にいるだけでも良い気はする。奥の間にまっしぐらだろうから。
とは言え、絶対に奥の間へ直進するとも限らない。勇者が部屋を一つ一つ改めた場合、鍵もかかっていない、掃除された部屋に、何をするでもなく一人佇む人間がいたら、どう思われるだろうか?
……あまり、良い予感はしない。
では、部屋以外で、勇者に見付かってしまっても言い繕えそうな場所は?
厨、だろうか。
あそこなら、逃げ出して食糧庫に隠れていたとも、捕まって働かされていたとも言える。それこそ、戦いが長引いて身動きが取れなくなってしまっても、食料には事欠かないため、飢え死にせずに済む。
そこまで考えたところで、優音はくすりと笑った。
つい最近まで、死んでしまいたい、と考えていたというのに。今は、飢え死にの心配をしている。本当に、環境が変わるだけで、変わるものだ。
……ふと、足を止めた。
たった数日で、優音の心は持ち直した。彼も、そうなのだろうか。メトゥスも、環境が変われば、救われるのだろうか。多くの者から馬鹿にされ、蔑まれ、責任とプレッシャーから逃げる事が許されない、この環境が変われば。
食事を用意した時、ふにゃりと、嬉しそうな顔をしていた。ああして、誰かと食事をするのが嬉しいのだろう。
そんな魔王が、一人で勇者とその仲間達を相手にする事などできるのか? ……できるとは、思えない。
そわりとして、奥の間へ続く廊下に視線を向ける。勇者は既に、城内に入り込んでいるのだろう。遠くが、騒がしい。
……そうだ、もう勇者は城の中にまで来ているのだ。隠れるのであれば、早くしなければ。
そう自分に言い聞かせ、隠れるために厨へと足を向ける。だが、その瞬間。
大きな音が聞こえ、城全体が大きく揺れた。
地震のようで、違う。その揺れに、優音はぎくりと足を止めた。そして、再度奥の間へ続く廊下に視線を向ける。
厨へ向かう廊下と、奥の間へ向かう廊下と。二つの道を交互に見詰め、しばし迷った。そして。
「……メトゥスが死んだら、どの道私も死ぬんだろうし……」
そう呟くと頷き、優音は奥の間へと続く廊下を歩き出した。先程の振動の余波で、天井から小さな瓦礫が落ちてくる事も気にかけずに。