ガラクタ道中拾い旅
最終話 ガラクタ人生拾い旅
STEP3 手がかりを拾う
3
「この花が……?」
ショホンが広げた本を覗き込み、トヨは首を傾げた。そこには、花弁の白い小さな花の絵が描かれている。
「この花だけでは、恐らく足りないでしょう。こちらの草と、ここに書かれた木の根もあれば尚良いかと」
そう言いながら、ショホンは次から次へと本を広げていく。目を白黒とさせながら、トヨは全ての本を見た。
真っ直ぐに葉が伸びている草の絵が描かれている。枝の曲がりくねった木の絵が描かれている。
「この花を煎じた汁は、精神を安定させると言われています。伝説の域ですが、どれほど錯乱している心でも、静かに落ち着けるとか。こちらの草は、体内のどのような悪い物でも中和すると言われていますので、練って飲めば、体を蝕んでいる病を解消する事ができるでしょう。最後のこの木の根は、乾かして砕き、粉末にして飲めば滋養強壮になるとか」
「つまり……花の汁を飲んで、これから病を治すぞって心構えになっておいて、草で悪い物を無くして、最後に木の根で弱った体が力を取り戻せるようにする……って事?」
簡単にまとめたヨシに、ショホンは頷いた。
「そうなりますね。どの植物も、歴史上にその名が現れており、実在するとわかっています。ただ、どれも希少で、数年に一度しか見付からないと言われていますが……」
「それでも、まったく何も無いよりは良いよ。ありがとう、ショホン!」
礼を言い、トヨは本に書かれた絵や情報を書き写し始めた。それぞれの植物の特徴、どのような場所に生息しているのか、ヘルブ国内であれば、どの辺りで得る事ができるのか。
同じく情報を覗き込んでいたヨシとシグが、生息地を確認して唸る。
「全部、生息地がバラバラね。全部回るだけでも、何ヶ月もかかるわよ、これ。おまけに、数年に一度しか見付からない、ってなると……」
「木の根を掘り出すのには時間がかかりますし、草も似たような物がたくさんあるでしょうから、見分けるのは簡単じゃありませんね。……人手が要ります」
そう言って、二人は顔を見合わせ頷き合った。シグが、真剣な表情をして木の絵が描かれた本を指し示す。
「この木が生えている場所、マロウ領に近いですね。フラウ様……マロウ家のご当主に、手紙を書きます。マロウ領の人達に、手分けをして探してもらいましょう」
「なら、こっちの草はバトラス族が引き受けるように手紙を書くわ。普段から薬草探しもしてるし、見分けるのにもそんなに苦労しないはずよ」
紙とペンを借り、二人は手紙を書き始める。手短に用件を書いた後、探して欲しい植物の特徴と生息していそうな場所を書き記し、絵の上手いウルハ族の者に描き写してもらった絵を一緒にし、封をする。
シグはウルハ族の若者に手紙を託し、ヨシは常駐していたバトラス族の若者に急いで届けるようにと指示を出した。若者達は、旅支度を整えるとあっという間に集落を飛び出して行く。
「これで、草と木の根は人手を確保できたわ。あとは……」
「花、ですね」
白くて、小さい花。花弁の先は少しだけ鋏を入れたような形になっており、ほんのりと薄紫になっているらしい。茎が短く、葉は大きく、一見しただけでは花が咲いている事に気付く事ができなさそうだ。
描き写した紙を、トヨは軽く叩いてまとめた。本を全て閉じて積み上げ、ショホンに礼を言ってから改めて紙を見る。
「僕達は、この花を探せば良いんだね。咲いているかもしれない場所は……」
言いながら、描き写した地図の上を指でなぞる。その指は、ヘルブ国の北端で動きを止めた。