ガラクタ道中拾い旅













STEP6 未来を拾う































「やはり……まだ婚姻などあの子には早いのではないだろうか。ただでさえまだ王族の暮らしに慣れ切っていないというのに、国家間を繋ぐ重要事を背負わせてしまうというのは……」

「陛下ぁ。まだ言ってるんですか? 殿下やフォルコ殿達が旅立ってから、何日経ったと思ってるんです? もういい加減諦めましょうよ」

ヘルブ国、王城の中庭で、王が花壇を眺めながらため息を吐いた。その後ではウトゥアが呆れている。その横では、王妃が苦笑している。

王妃も不安でないかと問われれば、そうではないらしい。……が、彼女が王に嫁いだのは、まだ十五歳の時。それも、国内では決して高い身分とは言えないフーファ族の、族長の親族とは言えさほど力の無い家から嫁に出たのだ。それでも、何とかなった。

それを思えば、互いの相性さえ良ければ、ワクァの件も大丈夫だろうと思っているらしい。

「……と言うか、まだ婚姻が成るかどうかもわかりませんよね? 殿下が相手を気に入って、相手も殿下を気に入ってくれなければいけない、って条件を付けたんですから。陛下が」

ウトゥアがズバリと言い、王は「うっ……」と言葉を詰まらせた。幼い頃を兄妹のように接した気安さからか、この宮廷占い師は王に対しても言葉に遠慮が無い。

「まず、殿下がテア国の姫君に対して、どう思うかですよね? 彼、長年の積み重ねのせいか、人見知りするタイプですよ? しかも、リオン殿とショホン殿の話だと、恋愛にも奥手だ。とても、この話に興味を持つとは思えないんですけどねぇ」

「そう言うが、お前も賛成した話だろうに……」

「そりゃ、良い話ですし、面白い話ですから。賛成はしますよ。けど、それが成るかどうかは別問題ですって。占いが示してくれるのは、可能性の一部ですもん」

王は「そうか……」と呟いて肩を落とした。ため息を吐く姿は、とても一国の王とは思えない。花壇に並ぶ冬の花が萎れてしまいそうなため息だ。

……と、その時。その花の群れの中。綻び掛けていた蕾が、一息に花開いた。冬の冷たい空気の中、ぽん、という微かな音がする。

その音を聞いて、ウトゥアの顔が輝いた。ウトゥアの占いは、聞こえた音から未来を教えてもらうという特殊な物。花開く微かな音も、ウトゥアにとっては大切な予言の声だ。

ウトゥアはまず、横に並んでいた王妃の耳にこっそりと耳打ちした。すると、王妃の顔が嬉しそうに綻んでゆく。息子にその美しさを分け与えた王妃の顔は、他に類する者が無いほど美しい。笑っていれば、尚更だ。

王妃ににっこりと微笑み返し、ウトゥアは王に視線を向ける。

「へーいか」

間延びした呼び掛けに、王は怪訝な顔をして振り向いた。見れば、王妃は嬉しそうに笑っているし、宮廷占い師は楽しそうな顔をしている。

「……どうした?」

首を傾げる王に、ウトゥアは堪えきれないという表情で、朗らかに言う。

「どうやら、意外な事が起こったようです。二年以内にはこの城に可愛いお嫁さんが来ますし、それから更に三年以内には、陛下は孫の顔が見れそうですよ」

最初は、その言葉の意味が理解できなかったらしい。王は眉を寄せた。そして、次第にそれは開かれ、目も見開かれていく。

「それは……本当か、ウトゥア!?」

「えぇ。どうやら殿下も、フォルコ殿達も、もの凄く頑張ったみたいですねぇ。帰ってきたら、是非話を聞いてあげてください」

寧ろ、根掘り葉掘り聞き出してください、面白そうだから。そんな言葉を呑み込んで、ウトゥアは祝いの言葉を王に告げる。

王と王妃は手を取り合って喜び、顔を綻ばせている。そんな二人に、ウトゥアは苦笑した。

「陛下、王妃様。嬉しいのはわかりますが、その姿を誰かに見られては示しがつきません。寒い事ですし、そろそろお部屋に戻られて、そこで存分に喜ばれたらいかがですか?」

それもそうだと、王と王妃は頷き、部屋に戻っていく。その後ろ姿を見送り、中庭に誰の姿も見えなくなってから。ウトゥアは一人、盛大にため息を吐き出した。

「本当に、すっごく意外で面白い事が起こったみたいなんだよねぇ……。あぁ、もうっ! 本当に、ついて行きたかった! フォルコ殿が羨まし過ぎるっ!」

叫び、そしてニヤリと笑った。

「そうだ。今のうちから良い酒を用意しておかないとね。特異な事があれば報告してくれるって、ご自身で言ったんだし。たっぷり話してもらわないと」

そう言って、くつくつと笑う。フォルコは、自国の宮廷占い師が風変わりな人物であるという事は知っている。しかし、テア国の王とその世継ぎ以上に人が悪いという事を、まだ知らない。












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