ガラクタ道中拾い旅













第九話 刀剣の国













STEP4 折れた心を拾う



























ただこうしていても埒が明かないと、クウロとセンも中広間を退出していった。彼らには国王や次期国王としての仕事が山のようにある。仕方のない事だろう。

ワクァの事は、ヘルブ国の面々と、客人の接待を自称しているホウジとゲンマ、それにヒモトで何とかしなければならない。

「……大変な事に、なっちゃったっスよね……。使節としては何も問題が無くて、途中までは、ワクァも楽しそうにしてたっスのに……」

「そうよね……」

沈黙を恐れるかのように吐かれたトゥモの言葉に、ヨシが同意の言葉を投げる。顔は、相変わらず悔しそうだ。

「タチジャコウ領で辛い想いをしてたのが、自由を手に入れて。旅をしていくうちに友達ができて、自信を持って、色々な物を手に入れて。王様と王妃様に会えて、責任は付いてきちゃうけど初めて自分の居場所を手に入れて。そして今度は、多分恋心みたいな物も初めて体験して……順調……ってわけでもないけど、物語の主人公みたいに、段々幸せになっていってたのにね……」

「それなのだが……」

ヨシの言葉に、フォルコが難しい顔をして口を挟んだ。

「殿下がヒモト様に想いを寄せたというのも、今までの話から考えると……同調を慕情と勘違いしたのかもしれぬな」

「……どういう事?」

怪訝な顔でヨシが問うと、フォルコは「うぅむ……」と唸った。上手く説明するための言葉を探しているようだ。

「テア国に来たばかりの時、ヒモト様が奇襲をかけ、殿下とヒモト様で手合わせをされた。知っての通り、お二人の戦い方は非常に似通っており、まるで鏡を見ているかのようであった。……ここまでは良いな?」

ヨシとトゥモ、ホウジとゲンマも頷いた。フォルコは、またしばらく唸って言葉を探している。

「同じ戦い方をする者……しかも、己と同じように剣の銘を呼ぶ。相手の事を気にする切っ掛けとなるには、充分であろう。気になって、ご自分でも気付かぬうちに何度もヒモト様の方を見ていらっしゃった。そして、その事を指摘され、何故ヒモト様がそこまで気になるのかを初めて考える」

「……僕達は、ヒィちゃんの事が好きなんじゃないか、ってからかった……ね」

「実際は、はっきり言ったわけじゃねぇけど……俺達の態度があからさまに「好きなんだろう?」だったよな」

フォルコは、「うむ」と頷いた。

「それで、何故ヒモト様の事が気になるのか。その理由は、ヒモト様に慕情を抱いているからだ、と自ら判断されてしまった。自ら判断した事は、そのままその後の思考の基盤となり得る。それ故、殿下はその後、はっきりとヒモト様を意識するようになったのであろう」

「実際は、戦い方が気になったから……剣や戦う技法の話をしたかっただけかもしれない。……そういう事っスか……?」

フォルコは、再び頷いた。ヨシ達は互いの顔を見合わせ、気まずそうに目を泳がせる。フォルコが、少しだけ苦笑した。

「勘違いであろうとも、それが切っ掛けで本当に慕情を抱くようになる事もあろう。今の実際がどうあれ、殿下がヒモト様に慕情を抱いているのではないのか、という話は国家間の話となってしまう事を除けば、さほど問題では無い」

「いや、それって結構大問題なんじゃないの……?」

煽っておいて何だが、王族に自由恋愛という物はあるのだろうか。今更ながら、自分達の行いがどういう結果を招いたのか……という事実に、ヨシとトゥモは肩を竦めた。ホウジとゲンマも頭を掻いている。

フォルコは、「今はその事は考えるな」と言って、全員に話を聞く態度を再び取らせた。

「問題は、色恋沙汰に気を取られて、殿下を含む全員が、殿下と剣の関わり方について考える機会を失してしまった事。殿下がヒモト様を気にしている理由が剣による物であると誰かが気付いていれば、あるいは……」

「早い段階からワクァ殿とヒィちゃんに思う存分に剣を語らせて、その会話の断片から、ワクァ殿が剣に依存している兆候を見付け出す事ができたかもしれない?」

街を歩いている時に、少しは話していた。しかし、あれではそれを見抜くには足りなかった。そして、直後に事件が起きた事からも、遅過ぎたと言える。

全ては結果論だ。気付いたから、今回のこの事態を避けられたとは限らない。いや、恐らく気付いていても、避けられなかった。とにかく、リラが折れてしまったのは突然の事だったのだから。

無理矢理問題提起をしているようにも思える。どうやら、冷静に見えてフォルコもかなり動揺しているようだ。それを証明するように、フォルコは深くため息を吐いた。

「今更と思われるかもしれぬが……某とて、ウトゥア殿に忠告されておったのだ。この旅で、殿下の心が折れるかもしれぬ、と。……折角の忠告を活かす事ができず、この体たらく……腹を切らねばならぬとすれば、それはホワティアの者共に脅されておった彼らではなく、某であろう」

そう言って、もう一度深くため息を吐いた。

「とにかく今は、見守るしかねぇだろ。あいつが精気を取り戻すかどうかも、勘違いから始まった色恋沙汰がどうなるかも」

「ワクァ殿が精気を取り戻す事ができた時には……その時はまた、城下を見に出掛けようか。今度はコソコソつけたりしないで、皆でわいわいと。ね?」

落ち着かせるような言い方をするホウジと、やや大袈裟な明るさで言うゲンマと。二人の言葉に、ヘルブ国の面々は力無く頷いた。

そして、ゆるゆると中広間の出入り口に視線を動かしてみる。廊下と中広間を隔てるショウジだかフスマだかの向こうから、何か進展があったような音は聞こえてこない。

「ヒモトちゃん……どうなったかしらね……?」

不安そうにマフを撫でながらヨシが呟き、一同は心配そうにその一点を見詰め続けていた。












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