ガラクタ道中拾い旅
第九話 刀剣の国
STEP2 淡い気持ちを拾う
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すらりと音がして、最奥のショウジが開いた。そこから姿勢の良い初老の男と、二十代後半と思われる男が現れる。どちらも温和そうな顔をしているのに、張り詰めた威圧感を身に纏っている。
初老の男は最上段に敷かれた布団に座り、若い男はその横に控えた。フォルコが座ったまま会釈をしたので、ワクァ達もそれに倣う。
「儂が、テア国国王、クウロ=チャシヴァ。そしてこちらは嫡男のセンじゃ。ヘルブ国のワクァ=ヘルブ殿、フォルコ=タティ殿、ヨシ=リューサー殿に、トゥモ=フォロワー殿。遠路はるばる、よくぞ参られた」
全員の名をすらすらと呼び上げ、クウロはニッと笑った。親しげに笑うその姿にも、隙のような物は一切見当たらない。気を張り詰めながら、ワクァは覚えてきた口上を口にした。
「先のホワティア国との戦争においては、チャシヴァ様並びに、テア国の皆々様に助けられました。ヘルブ国民一同、テア国には感謝してもしきれませんが、その気持ちを少しでもチャシヴァ様にお伝えするべく、ヘルブ国王より親書を預かって参りました。また、些少ではございますが、テア国への礼物も用意しております。まずは目録をお持ちしましたので、親書と共に受け取って頂ければ、幸いにございます」
少し、早口になったかもしれない。それでも、何とか言い切る事ができた事にまずは内心安堵する。やはり、こういう席は苦手だ。
親書と目録の収められた、銀色の細長い箱を取り出して捧げ持つ。クウロは「ふむ」と軽く唸ると、横に控えた長男のセンへと視線を向けた。センは頷き、ワクァ達の元へ来ると箱を受け取り、クウロの元へと戻っていく。クウロは箱をセンから受け取ると、穏やかに笑って言った。
「礼を言わねばならぬのは、こちらとて同じ事。ホワティア国の者どもには、娘を寄越せだの領土を割譲しろだのと無理難題を言われ、拒めば侵入して騒ぎを起こすなどの嫌がらせを受けていてな。いい加減腹に据えかねていたのじゃ。フォルコ殿が訪ねてきたのは、そんな折でな。……貴国が先に動き陽動してくれたお陰で、こちらは随分と動き易かった。後程、こちらからヘルブ国王へも感謝の親書を届ける事を約束しよう」
そして、クウロは箱から何枚もの紙を取り出すと、サッと目を通す。途中で何度か、ワクァ達の方を見た。そして、どこか嬉しげに眼を細めると、紙を全て折り畳み、箱に戻す。
「後でまた、じっくり読む事と致そう。セン、客人方は遠い道のりを歩いてこられてお疲れじゃろう。すぐに、食事の席を用意するように。……外の国から来られた方々に、膳での食事は難しいかもしれぬが、我が国にテーブルなどという洒落た物は無いからのう。どうしたものか……」
「ならば、掘りごたつの部屋はいかがですか、父上。いえ、国王陛下。あそこならヘルブ国の文化のような座り方をして食事もできますし、何より暖かい。今の時期、親睦を深めるには丁度良いでしょう」
はきはきと答えるセンに、クウロは「うむ」と頷いた。
「それが良かろう。セン、お主の思うように采配いたせ。ホウジ、ゲンマ、ヒモトも手伝うように。用意ができた頃には、儂も参る。……おぉ、そうじゃ。客人方を、お泊めする部屋に案内する事も忘れぬようにな」
それだけ言うと、クウロは立ち上がり、大広間から出て行った。それに続いて、セン、ホウジ、ゲンマ、ヒモトも立ち上がる。
「厨は、ヒモトが采配した方が良いだろうな。兄上は、総指揮。俺が手伝うと逆に仕事を増やすだろうから、俺は厨には近寄らずに客人の案内。ゲンマは食事を準備する手伝い。それで良いよな?」
「それは構いませんが、ホウジ兄上は単に手伝いをしたくないだけではございませんか?」
呆れた顔のヒモトに、ホウジはニッと笑った。センとゲンマは呆れたような笑顔を浮かべている。
「まぁ、そんなわけで。後は頼んだぞ、ヒモト、ゲンマ! それでは兄上、俺はこれにて!」
挨拶だけはきっちりとして、ホウジはワクァ達を促してさっさと歩き出した。慌てて歩きながら、ワクァはちらりと後ろを振り返る。今度は、既に次の行動に取り掛かっているヒモトと視線が合う事は無かった。
内心ホッとしつつ、ホッとしている己に、ワクァは首を傾げた。