ガラクタ道中拾い旅
第七話 闘技場の謀
STEP3 チラシを拾う
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「こんな大会があるのか……!」
自室でヨシからチラシを渡されたワクァは、興味深げに目を輝かせた。目の前のヨシとマフは、誇らしげに胸を反らしている。
「最近、ずっとお城の中で勉強三昧だったでしょ? そりゃ、馬術や剣術の稽古もあるにはあったし、朝夕兵士の宿舎でこっそりと兵士相手に手合わせをやってる王子様の噂が流れたりもしてるけど……たまには、強い人相手に思いっきり暴れたいんじゃない?」
「バレていたのか……」
「何でバレないと思ってたのよ……」
ばつが悪そうな顔をするワクァに、ヨシは呆れた顔をした。そして、首をぶんぶんと横に振ってから話を元に戻す。
「大会への参加資格は、腕に自信がある事と、囚人ではない事だけ。つまり、ワクァが出場しても何ら問題は無いわけよ」
「たしかに……」
そう言って頷くが、ワクァは渋面を作っている。
「? どうしたんスか、ワクァ?」
「いや……」
トゥモが首を傾げると、ワクァは渋面のまま呟いた。
「出たいのは山々なんだが……どうやって申し込みをすれば良いかと思ってな……」
「あ」
ワクァ以外の全員が、間抜けた声を発した。
「そうか……王様とお后様が、ワクァの参加に良い顔をするわけがないわね……」
「危ないっスもんね。……そう考えると、王族は高覧試合を観に行くから予定を知らされるはずなのに、ワクァが今までこの大会の事を知らなかったのにも納得っス。ワクァが参加したいと言い出さないよう、申込期限が過ぎるまで話が漏れないようにしてたんスね」
「この大会って、武器は本物を使うんだよね? ワクァのお父様とお母様、ワクァが怪我をしないか心配なのかも……」
「いつもならそんな事、気にもしないんだが……流石に、今はあまり気を揉ませたくないな……」
「そうですとも! ワクァ様が怪我でもなさったら、陛下とお后様は勿論、このじいめも悲しみますぞ! 窮屈ではございましょうが、ここはご自重くださいませ!」
「うわぁぁっ!?」
いつの間にか背後で茶を淹れていたカロスの存在に、ニナン以外の全員が思わずのけ反った。急に跳ね上がった心拍数を抑えようと、三人と一匹は左胸に手を当てる。
「び……びっくりしたっス……」
「まふ、まふっ!」
「じいやさん……今、完璧に気配が消えてたけど……どうやったの? 後学のために教えて!」
「お前はこれ以上余計な事を学ぶんじゃない!」
「カロスさん、ちゃんとノックして入って来たよ?」
どうやら、ニナンだけはカロスの存在に気付いていたようだ。いつの間にか与えられたらしく、手には茶菓を持っている。
ニナンの頭を微笑ましげに撫でた後、カロスは湯気の立つ紅茶のカップを全員に配る。全員に行き渡ったのを確認してから、カロスは盆を持って扉の方へと下がった。
「良いですか、ワクァ様! 男として、闘技大会に出たいというお気持ちはわからないでもありませんが、絶対に駄目でございますよ! 当日は大人しく、高覧試合をご覧になっていてくださいませ!」
念を押してから、カロスは退室していった。扉から足音が遠のいていくのを確認してから、全員でほーっとため息を吐く。
「たしかに……こんなんじゃ、ワクァの名前で無理に申し込んでも受け付けてもらえないかもしれないっスねぇ……」
「そうなんだ。……この際だから何度でも言うが、出れるものなら出てみたい」
「僕も、ワクァが戦ってる姿、久しぶりに見たいなぁ……」
「こうなったらもう、久々に女装するしかないんじゃない?」
「ふざけるな。バレた時の赤っ恥度がマロウ領の事件の比じゃないだろうが」
「赤っ恥じゃ済まないと思うっス……」
やや呆れた顔をして、トゥモが静かにツッこんだ。それからすぐに、その表情は「ん?」という気付きのものへと変わる。
「そうっス! その手があるじゃないっスか!」
「え?」
全員の視線が、トゥモに集まる。トゥモは、少しだけ恥ずかしそうにニヘッと笑った。