ガラクタ道中拾い旅
第七話 闘技場の謀
STEP3 チラシを拾う
2
「首尾はどうだ?」
「上々です。例の物は、狙い通り渡りました」
暗闇の中、声がする。声色は複数あるが、どれも低く、ざらついている。聞く者に不快感を与える声質だ。
「しかし、アレが渡ったのは良いとして……都合よく動いてくれるでしょうか?」
「なぁに、動いてくれなければ、また別の手を考えれば済む事だ。それに、恐らくその心配は杞憂だ。向こうは、こちらの思惑通りに動いてくれる」
酒でも飲んでいるのだろうか。声が酔っている。
「どうして、わかるんです?」
不思議そうな問い掛けに、酔った声の主は鼻で笑った。
「わからいでか。やんちゃな仔猫が、ある日を境に、籠に閉じ込められてんだ。遊べる場所があるとなったら、我慢できずに飛び込むに決まってる。仔猫自身が遊び場に気付かなくても、カワイソウに思った周りの奴らが教えてやるだろうよ。そこに良い遊び場があるぞ、ってな」
「はぁ……そういうもんですかねぇ?」
どこか不安そうな声を、酔った声はまたも鼻で笑った。
「そんな事より、計画は次の段階だ。腕に覚えのある奴を、一人でも多く集めろ」
「今、声をかけてます。……けど、本当にやるんですか? 大勢で取り囲んで袋叩きにするとか……何だかんだで、相手はまだ大人になりきれていない子どもですよ? たしかに消えてもらわなきゃいけませんが、袋叩きは流石にむごいんじゃ……」
「なぁに言ってんだ。相手は元々奴隷だぞ? 袋叩きなんて慣れたもんだろうが」
「そりゃ、そうですけど……。それに、できるんですか? あんな警備が厳重な場所で取り囲むなんて……」
酔った声が、少しだけ覚めた声で「ふむ……」と呟いた。
「その辺は、こっちで上手い事手を回しておく。失敗した場合の、逃げ場の確保もな。……できれば、取り囲む前に何とかできりゃあ良いんだがな」
「……と、言うと?」
「事故で死んでくれるのが一番良いって事だ。あの国王の性格なら、事故なら深く追求したりはしないだろう。そのためにも、特に強い奴には届を忘れないように念押ししておけよ」
「あ……はい、それは確実に」
相手の答に、酔った声は満足そうに唸った。
「あの反乱を何とかした以上、それなりには強いんだろうが……所詮は子どもだ。しかも、あの体躯に面構え。事故死してくれる可能性はまぁまぁ高いな。……それよりも問題は、もう一人の方か」
「もう一人?」
一拍置いて、「あぁ……」と呟いた。
「そう言えば、ずっと一緒にいるバトラス族が一人、いるんでしたっけ?」
「そうだ。バトラス族は、どんな武器でも使いこなす戦闘センスを持っていると言うからな。当日、そいつに武器が渡らないよう、徹底的に目を光らせておけ」
「わかりました。……けど、バトラス族って遊牧民族ですよね? 常に固まって移動をしていて、一人で行動してるってイメージが無いんですけど……」
三度、鼻で笑う声が聞こえた。
「バトラス族の中でも変人の類なんだろうよ。一族の中で孤立しているから、自分だけの仲間を探しに群れから離れたんだろう。つまり、仲間を呼ばれる心配は無いって事だ」
ちゃぽん、という音がした。酒瓶を口に運んでいるらしい。
「一度は夢見た栄華を、簡単に手放せるかってんだ。突然登場した王子には、同じように突然退場してもらおう」
低く笑う声が、闇の中に響く。そしていつしか闇の中に融け、消えていった。