ガラクタ道中拾い旅
第六話 証の子守唄
STEP2 信じられない話を拾う
3
「一緒に過ごしたんなら、わかるんだろうけどさー。こいつ、本当にドジでドジで……昨日も、詰所に立てかけてあった槍とか盾とか、一瞬のうちにドミノ倒しにしちまって」
「えー、自分のせいだけじゃないっスよ! ちゃんと片付けてあれば、そもそもあんな事にはならないっス!」
「確かに片付けは大事だが、トゥモはトゥモで注意力が無さ過ぎるんだろう。ユウレン村に俺達が滞在していた数日の間に、一体何回転んだと思っているんだ?」
「ワクァまで!」
ヨシが謁見の間でただならぬ空気の中に身を置いている頃。男達は城門脇で平和な会話を繰り広げていた。始めはウトゥアの銀貨を持ってきたワクァの様子を伺っていた衛兵まで、会話に加わってしまっている。どうやら、トゥモの同僚らしい。
平和なのだろうが、これで良いのだろうかと疑問に思ってしまうほどのダラけ具合だ。衛兵とトゥモは、衛兵の仕事が終わったらそのまま皆で遊びに出かけようなどと言う話まで持ち出し始めている。
「あー、けど連れの女の子いたよな? 野郎ばっかりの中に女の子一人だと、やっぱり気にするかな?」
「そうっスねぇ……。どう思うっスか、ワクァ?」
「ヨシは気にしないと思うが……そう言えば、遅いな」
「陛下に謁見しようって言うんだ。近所にお使いに行くような早さでは戻ってこれねぇだろ」
「そういうものか」
「そういうもんっス。……あれ? 何かあったんスかねぇ?」
頷いてから、トゥモは城門の中に目を遣り、好奇心を隠せない声で呟いた。残る二人と一匹が見れば、二人の中年兵士がこちらに向かって走ってくる。何やら、随分と急いでいる様子だ。
二人の兵士はワクァ達の元へやって来たかと思うと、そこで足を止めた。そして、ワクァに声をかける。
「……ウトゥア様の銀貨を持ってきた娘の、連れの若者とは……あなたの事ですか?」
「? はい」
訝しげにワクァが頷くと、片方の中年兵士が早口で伝えた。
「陛下が、あなたを謁見の間へ連れてくるように、と。帯剣したまま、動物を連れていても構いませんので、今すぐ私についてきてください」
そう言う中年兵士の顔は困惑している。何故そうする必要があるのか、彼もよくはわかっていないのだろう。何か訊かれても答える事はできない、という顔で、彼は踵を返す。
「ヨシの奴……一体何をやらかしたんだ……!」
どこか呆れて、どこか青ざめながら。ワクァはその後に続き、城の中へと足を踏み入れる。その後ろ姿を眺めながら、トゥモが心配そうに呟いた。
「ヨシさん……どうしちまったんスかねぇ……? それに、ワクァも心配っス。なんか、顔が青くなってたっスし……」
「……ワクァ? あの若者の名前は、ワクァというのか?」
ワクァの後から城内に戻ろうとしていた中年兵士が、目を丸くして足を止めた。その様子に、トゥモと同僚の衛兵は首を傾げる。
「そうっスけど?」
「何と言うか、まぁ……これまた、随分と懐かしくも珍しい名前を付けられたもんだ」
「珍しい名前なんスか? ……確かに、他にワクァなんて名前、見た事無いっスけど……」
「けど、懐かしい?」
首を傾げたままの二人に、中年兵士は頷いた。
「そうか……お前さん達はまだ若いから、知らないのかもしれんなぁ。……ワクァって名前はな、十何年か前までは、誰も名付けられた事の無い、珍しい名前だったんだよ」
「へぇ……けど、最近でもワクァなんて名前、これまで聞いた事なんて無いけどな」
「そうっスね。変な名前だとは思わないっスけど……」
「そりゃ、そうだ。変だなんて言ったら、首が飛びかねねぇぐらい大変な名前なんだよ。そして、それと同時に……絶対に誰も付けようとしねぇ名前でもある」
中年兵士の言葉に、若者二人は顔を見合わせた。そんな二人に、中年兵士は問う。
「話は変わるが……お前ら、陛下には昔、王子様がいらっしゃった事を知っているか?」
「そりゃ、流石にな」
「確か、王子様が病気で亡くなってしまった事が原因で後継ぎがいなくなってしまって……それで今、陛下はあんなお触れを出しているんスよね?」
中年兵士は頷いた。
「そうだ。それから……また話は変わるがな。例えば、もしお前らに子どもが生まれたとして、病気で死んじまった子どもと同じ名前をつけるか?」
二人は再び顔を見合わせ、同時に首を横に振った。
「つけないっス」
「特別な理由があればまだしも……病気で早死にしちまった子どもと同じ名前なんて、何か縁起悪いしな」
二人の答に、中年兵士は「だろ?」と言った。そして、言う。
「ワクァ、ってのはな。十六年前に亡くなっちまった、王子様の名前なんだよ」