ガラクタ道中拾い旅
第六話 証の子守唄
STEP2 信じられない話を拾う
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「不快な思いをさせてしまって済まない。奴らにはあとでもう一叱りしておこう」
本当に済まなそうな顔で詫びる王に、ヨシはぶんぶんと首を横に振った。そして、恐る恐る口を開く。
「あの……さっきの話……。王様の……」
王は、鷹揚に頷いた。
「そうだ。私の祖母……先々代の王妃はバトラス族の出……つまり、私と君は遠い親戚という事になるのかもしれぬ。そもそも、我々ヘルブ族は元々が複数の部族の寄せ集め。今でこそヘルブ族という一つの部族になってはいるが……それが他部族を蛮族だ何だと蔑むとは、呆れて物も言えん」
ため息をつき、それから王は苦笑した。
「いかんいかん。民にこのような姿を見せるべきではないな」
そして王は立ち上がると、ヨシの方へと歩み寄った。
「それで……君が持ってきた宝と言うのは、どのような……」
「あ、その……宝と言うか、ウトゥアさんからの書簡なんだけど……」
そう言ってヨシは、ウトゥアから託された書簡を王へと手渡す。今この場に大臣達が残っていたら、迷わず無礼討ちにされてしまいそうな距離だ。
王は書簡を受け取り封を解くと、その内容に素早く目を走らせた。その顔は、次第に険しくなっていく。
やがて王は書簡を丸めて小脇に抱え、玉座へと座り直した。そして、禁じ得ないという表情でゆっくりと息を吐くと、ヨシに向かって言う。
「ウトゥアからの報告は、確かに受け取った。……しかし……」
「しかし?」
ヨシが首を傾げると、王は言い難そうな表情をする。
「申し訳無いのだが、何故ウトゥアが、この書簡を国の行く末を安泰にする宝と言っているのかが、私にはわからぬ……」
「王様でも!?」
ヨシの素っ頓狂な声に、王は頷いた。そして、場の雰囲気を変えるかのように問う。
「ところで……私は君に、まだ名前を訊いていなかったな」
「あ……」
ヨシもその事に思い至り、慌てて姿勢を整えた。
「その……ヨシ=リューサーと申します」
「リューサー? ……なるほど、リオンの……」
頷き、そして王は少しだけ首を傾げた。
「ところで、最初に君が来たという報告を受けた時……謁見を願い出ているのは二人だと聞いたのだが……。それに、ウトゥアの書簡にも、この書簡を届けるのは二人だと記してある」
「あ、その……ちょっと、こういう場に出るのが苦手なものだから……」
言葉を濁しながらヨシが言う。まさか、剣を預けたくないしパンダイヌが離れてくれないから門前で待っているとは言えない。
「そうか……もう一人の名前は、何という? 歳は?」
その質問に、ヨシはホッとした。やっと、躊躇わずに答えられる問いが来た。
「はい。もう一人は私より少し年上の男性で……名前は、ワクァって……」
その瞬間、王の目が大きく見開かれた。
「ワクァ……?」
「え? えぇ……」
ヨシが頷くのとほぼ同時に、ガタンと大きな音を立て、王は玉座から立ち上がった。
「その……その若者は、今、どこに……!?」
鬼気迫る王の表情に気圧されながら、ヨシは何とか言葉を紡ぎ出す。
「お、お城の門の前で、待っててもらってるわ。帯剣してるし、動物も一緒だからって……」
その問いに、王はキッとヨシの後方を見据えた。そして、大きな声で兵を呼ぶ。
「誰か……誰かあるか!」
「どうされましたか、陛下!?」
この王がここまで大きな声を出す事は滅多に無いのだろう。数人の兵士が、何事かと慌てて入ってくる。
「門の前で待っているという、この娘の連れをここまで案内してきてくれ。帯剣したままでも、動物を連れていても構わん。今すぐにだ! それから……誰か、ミトゥー……王妃に伝えて参れ。すぐに謁見の間へ来るように……と」
「しっ……しかし、お言葉ですが陛下……王妃様は、お体の調子が優れぬと……」
「歩けぬほどではあるまい。……いや、歩けないほどであれば、椅子ごと、ベッドごとでも構わん。すぐに、ここへ……!」
「は、はっ……!」
数人の兵士達が、慌てて走り去っていく。その様を呆然と見詰めるヨシに気付き、王はハッとし、苦笑した。
「……取り乱してしまったな……何度も見苦しいところを見せてしまい、済まない。だが……」
「……私は、連れの名前と年頃、性別を喋っただけよ。それがこんな大騒ぎになるなんて……どういう事?」
訝しげにヨシが問うと、王は「そうだな……」と呟いた。
「その若者と、王妃がここまで来るのにはまだ時間がかかる……。バトラス族の血を引く者同士のよしみだ。君には、少しだけ先に話すとしよう……」