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ガラクタ道中拾い旅
第四話 民族を識る民族
STEP6 旅の理由を拾う
1
「ありがとうございます。皆さんのお陰で、誰一人奴隷商人に捕まらずに済みました」
ショホンが頭を下げ、車座になった一同は「気にするな」と言いたげに笑って見せる。碗に注がれたにごり酒をがぶりと飲みながら、リオンが言った。
「しかし気になるな、その男。主人から離れた傭兵奴隷の素性なんか、一目でわかるもんなのか?」
「いえ……旅立ってから他家の貴族や傭兵奴隷、ヘルブ街で働いている兵士にも会いましたが、リラ……俺の剣がタチジャコウ家の家紋入りだという事はわかっても俺が元傭兵奴隷だという事までわかった人間はいませんでした。ヨシだって、初めて俺と会った時、主家の子息と一緒だったにも関わらず俺が傭兵奴隷だと思わなかったぐらいです」
「そう言えば男とも思わなかったわね、あの時は」
「余計な事は言わなくて良い」
茶々を入れたヨシに釘を刺し、ワクァも碗に口を付けた。因みに、若者組の碗の中身は全て昼間ウルハ族の子ども達が飲んでいたノンアルコールの物だ。
「昔は傭兵奴隷となった子どもの顔には一目でそれとわかるよう刺青したと聞きますが……今となっては廃れた風習ですしね」
ショホンがワクァの顔色を気にしながら言った。元より、ワクァはその悪しき風習を知っている。幼い頃には、よくイチオに「傭兵奴隷は顔に刺青を入れるのが決まりなんだぞ」と言われ、顔に落書きをされたものだ。それを思い出し、少しだけ眉間に皺が寄った。ワクァの顔が曇ったのを見て、ヨシは慌てて話を振る。
「ねっ……ねぇ、ワクァの素性を一発で見抜いた奴ってさ、どんな顔だったの? 何か怪しいし、気を付けておかないと、でしょ? 顔がわからなきゃ気を付けようがないし、教えてよ。ね?」
言われて、ワクァは出来る限り鮮明に思い出そうと記憶を呼び起こした。
「歳は四十代の半ばぐらいで……体格は良かったと思う。俺より頭一つ分は大きかったな。肌の色は浅黒くて、髪はかなり短かったな……まるで芝生のような頭だった」
「芝生頭ね……」
ヨシが、意味ありげに呟いた。だが、その言葉に含まれた物について誰かが問う前に、リオンがワクァに問うた。
「……で、これからどうするんだ、ワクァ?」
「え? どう……とは?」
「決まってんだろ。お前の身の振り方だよ。このまま妥協して、ウルハ族に帰化するのか。それともまたあても無く旅をして、親の手掛かりを探すのか。はたまた、あの怪しい奴隷商人を探して洗いざらい知ってる事を吐かせるのか」
そこで、ワクァは少しだけ考えた。
「とりあえず、今はまだウルハ族に帰化するつもりはありません。俺の親が生きていないと確定したのならともかく、まだ親がどんな人物かもわかっていないんです。俺の中ではっきりと決着がつくまでは、旅を続けたいと思います」
「子ども達は皆、ワクァさんに大変懐いていました。ウルハ族は、ワクァさんの帰化をいつでも歓迎しますよ」
ショホンの言葉に、ワクァは頭を下げた。そして、更に口を開く。
「あとは、旅の行き先ですが……まずはあの怪しい奴隷商人を追ってみようと思います。今のところ、何か新しい情報を得られそうなのはあの男ぐらいですからね。けど、それよりも確実な手掛かりを得る事ができた時には、すぐにそちらに行き先を変更しようと思うんです」
ワクァの答に、リオンは「なるほどな」と頷いた。そして、今度はヨシの方に向き直る。
「で、ヨシ。お前はどうする?」
「どう、って?」
今度はヨシが首を傾げる番だった。すると、リオンは呆れ果てた顔をして言う。
「ワクァと一緒に旅を続けるのか、ワクァと別れて一人旅をするのか、それとも俺について一旦バトラス族の集落に帰るのか、だ! 因みに、一人旅は認めないからな。いくらバトラス族でも、若い娘には危険過ぎる!」
「とりあえず、帰るのは嫌」
「おや、どうするかが決まったようですね」
あっさりと選択肢が一つに減った様を見て、ショホンが苦笑しながら言った。それに複雑そうな顔をしながらリオンは頷いた。
「ったく……このお転婆が。たまには手紙くらい書けよ!? あぁ、それとワクァ」
「はい?」
突然名を呼ばれ、ワクァは首を傾げた。そんなワクァに顔を近付け、リオンはひそひそと問う。
「実際のトコ、どうなんだ? お前とヨシ……どこまでいってんだ?」
「? とりあえず、最近ではここより東にあるユウレン村。その少し前ならマロウ領まで行きましたが」
ワクァの答に、リオンは脱力しながらヨシの方に顔を近付けた。
「あー……安心したけど逆に心配になった……。おいヨシ、あいつ大丈夫か? 男としての何かが壊れてんじゃねぇのか?」
「あー、うん、そうかも。何せ、見た目はあの通りの女顔だし」
「女顔と言うな! 俺は男だ!」
聞こえるか聞こえないかのヨシの囁き声に、相変わらずのワクァの怒声が飛ぶ。互いに以前のペースに戻ってきたな、と思いながら、ヨシは笑った。
「とりあえず、男って自覚はあるんだし、大丈夫なんじゃない?」
「そういう事にしておくか。このままの方が安全だしな。……しっかし、地獄耳だな、あいつ」
「本当よね」
そう言って、ヨシとリオンは盛大に笑い出した。当のワクァは、何故笑われたのかがわからない。憮然としたまま、二人が笑い続ける様子を見続けていた。