縁の下ソルジャーズ緊急出動!
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けたたましいアラームが鳴り響き、オフィスでのんびりと書類を片付けていた全員の顔が引き締まる。廊下を慌ただしく駆け抜ける音が扉の向こうから聞こえてきた。
「おっと、今日もまた敵さん来やがったな」
「六人はもう現場に向かってる! Aグループは緊急出動できるよう今すぐ待機! Bグループも、戦闘終了後すぐに動けるよう準備しておけ!」
「了解!」
短い返事と共に、何人かの技術者が格納庫の方へと駆けていく。残りの者も、ジャケットを着込み、道具箱を確認した。
半年前のあれ以来、技術四班は少しだけ体制が変わった。
今までは戦闘が終了してから全員で一斉に街へ修復に繰り出していたのを、AグループとBグループの二つに分けたのだ。
片方は、これまで通り。戦闘が終了したら街へ出動し、壊れた建物を直していく。そして、もう片方は戦闘中でも出動できるよう、ずっと待機しているのだ。
そうする事で、半年前のようにロボットが壊れてもすぐ動けるようにする事ができる。雑魚怪人まで巨大化しても、取り囲まれないように対処する事ができる。
勿論、その必要が無ければ出動しない。戦闘が終わり次第、二グループ揃って街へ出るだけだ。因みに、AとBのどちらが緊急時に備えるかと言えば、日替わりである。仕事量が偏ってしまう事もあるが、敵がいつ現れるかわからなくなってきている以上、こればかりは仕方が無い。
当然の事だが、こんな編成をしていては人手がいくらあっても足りない。それでなくても、元々人手は足りていない状態だ。
その人手不足の問題をどうやって解消しようとしているかと言えば……。
「誠くん! 悪いけど、すぐに研修室に来て! 二期生の子達が回路を滅茶苦茶に取りつけちゃって、上手く取り外さないと爆発しかねないの!」
「うぇっ!? わかりました、すぐ行きます!」
技術四班に限らず、全ての技術班に人を増やすべく、最近研修生制度ができた。理系大学、高校、専門学校に通う者で、希望をする者に早期から技術を叩き込み、社会人となった時に戦隊内で即戦力となるように育成する制度だ。学生だけではなく、既に社会人となったが戦隊に技術者として所属し、街の平和の為に戦いたい、という者も受け入れている。
希望者が多い時は抽選になるが、それでもできる限り多くの人材を育成できるよう、皆で頑張っている。
その最高責任者に若いながら抜擢されたのが、誠だ。子どもの頃から懸命に学び続けて得た知識と技術、そして半年前のあの時に積極的に動いて危地を脱する事に貢献した実績を買われての事だと、同僚達は言っている。
また勝手な行動をしないように責任を負わせたのではないかと推測する者もいる。それは、たしかにそうなのかもしれない。あの時の誠は、上から見れば本当に勝手な行動が多かったのだから。
それでもそれが推測の域を出ないのは、誠が未だに技術四班に所属しているからだ。手が空いている時ならば、あの改造した試作機に乗って現場に出ても良い事になっている。
お陰で忙しい事この上ないが、仕事に遣り甲斐はあるし、好きな事をできているし、好きな人の近くにいる事が多いしで、今のところ満足している面が多い。
……そう。研修制度を開始するにあたり、通常の講師には現場で戦った経験のある、歴代の戦士達が多く任用されている。やはり戦いの場の空気を知っている者である方が武器の開発一つとっても扱いや耐久性に関するアドバイスがしやすい、というのがある。それに、武器やロボットの扱いに経験があるという事は、ある程度の知識も持っているという事だ。
流石に新しい知識や技術を教える事はできないが、武器の扱いを教える実技講習の講師としては適任である。開発者もある程度扱う事ができなければ、実践に向いた武器を開発する事は難しいだろうから。
そして、講師として任用された者の中には、引退したばかりの世良の姿もある。主に武器取扱いの実技講習と、緊急時に機器類に応急処置を施す実技講習の講師を担っている。
普段はそれほど問題は起きないのだが、たまに世良やその他の講師では対処しきれない問題が起こる。そんな時は、技術四班のオフィスか格納庫にいる誠の出番だ。
今も、どうやら物騒な問題が起こっているようだ。出動する同僚達と同様にジャケットを着つつ、誠は道具箱を手に格納庫とは逆方向にある研修室へと足を向ける。
「そっちはそっちで慌ただしいな。今日は手伝ってもらえるかと思ったんだけどなぁ」
すれ違った岩村にそう言われ、誠は「すみません」と苦笑した。
「僕も、たまには現場に出たいんですけどね。一刻も早く即戦力を増やして、岩村先輩達の負担を減らさなきゃいけませんし」
「そうだな……それに関しては、本当期待してる。……俺達も頑張るからさ、お前も頑張れよ」
「はい!」
頷き合い、二人はそれぞれ格納庫と研修室へと向かう。岩村は新しい相棒と。誠は、世良と。
皆、頑張っている。街の平和を守るために。街の平和を、大切な人を守りたいという、自分の希望を叶えるために。
表舞台に立つ者も、縁の下の力持ちも。皆が、何かを頑張っている。だからこそ、この街の平和は、今日も保たれているのだ。
その想いを胸に、誠は研修室へと足を急がせる。
運動音痴の誠の遅さをじれったく思ったのだろうか。世良が、誠の手を引いて走り出す。
その手は柔らかく、そして温かかった。
(了)