亡国の姫と老剣士





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これも、夢なのか別の何かなのかはわかりません。

月明かりの綺麗な夜です。花が咲き乱れる王宮の庭池の淵で、メイシア王女は一人の騎士らしき人物と一緒でした。騎士らしき人物は王女に対し跪いており、顔はよく見えません。年の頃は、十代の半ばから後半くらいでしょうか。

「本当に……貴方が私の護衛騎士になるとは思いませんでした。……ニール」

王女の言葉に、ニールと呼ばれた騎士は答えます。

「フィルグ様のような騎士となり、姫様をお守りしたい……その気持ちは、あの時から変わっていませんから……」

「そうですか……」

王女は、少しだけ頬を染めました。そして、少しだけいたずらっぽく笑うとニールに問います。

「ニール……。もし……もしものお話ですよ? 私が何者かに囚われたら、その時は私を助けに来てくれますか?」

「……どこの世界に、お仕えする姫様を助けに行かぬ騎士がおりましょうか……」

存外だとでも言わんばかりに、ニールが答えます。すると、王女はもう一度いたずらっぽく笑って言います。

「あら……ニールは、私が貴方の仕える姫だから助けに来てくださるのですか?」

その言葉に、ニールは慌てます。王女の言葉が、予想外だったのでしょう。

「そっ……そんな事はございません! 例え姫様が市井の娘だったとしても、私は命を賭して姫様をお救いすると思います!」

ニールの答に、王女は嬉しそうに微笑みました。そして、身をかがめて顔をニールに近付けると、言います。

「それならば……私はもし何者かに囚われた時には貴方の事を待ち続けましょう。決して無理をして脱出したり、他の者に身を委ねたりせず……貴方の助けを待ち続けます。ニール……」

「……光栄です。姫様……」

そう言って畏まるニールの顔を、王女は両手で包みこみました。そして、子どもを優しく叱りつける母親のように言います。

「二人の時は私の事を、王女ではなくリルと呼んでください。……ニール……」

今度は本格的に頬を染めて、絞り出すように王女が言いました。その言葉に、少なからず動揺したのでしょう。ニールは俯いたまま立ち上がると、くるりと王女に背を向けました。

「御寝所警護の当番の時間ですので、失礼させて頂きたく存じます。……姫様も、早々にお部屋に戻られますよう……」

早口でそう言うと、ニールは逃げるように駆け出しました。王女は、いつの日かのようにただぼおっと、駆けていくその後姿を眺めていました。




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