葦原神祇譚
6
八岐大蛇が倒された跡を、ビルの上から一人の青年が眺めていた。仁優が書店で出会った、あの青年だ。
大蛇が倒された跡には、今や警察や消防、マスコミに野次馬が集まり混乱状態が発生している。
「ウミ様、ここに居られましたか」
背後からかけられた声に、ウミと呼ばれた青年はゆるりと振り向いた。そこには、精悍な青年と少女が佇んでいる。
「ライにメノか」
「一体、何をご覧になっていたのですか?」
問いながら進み出、ライとメノはビルの下を覗き込んだ。そして、混乱する人々を見てライが顔を顰める。
「……今なら、一度に多くの民を黄泉に送れそうでございますね。テレビのカメラとやらが回っているようですし、この国の民に恐怖を植え付けるのにも良さそうだ。……動きますか?」
「……いや。わざわざ奴らを喜ばせてやる事も無いだろう。それよりも……」
呟き、ウミは向いのビルを見た。それにつられて、ライとメノもそちらを見る。そして、二人の顔は驚愕に彩られた。
「あ、あれは……」
三人の視線の先には、瑛がいた。戦闘装束のまま、ウミ達を睨めつけている。
「そうだ、無事に生まれ変わっていたらしい。……今の名は、瑛、と言ったか」
「……どうされるおつもりですか?」
おずおずとメノが問うと、ウミはふるふると首を横に振った。
「どうもしない。今ここで、彼女と戦うつもりは無いのでな。……そうそう、メノ。生まれ変わると言えば、猿を見たぞ。奴も転生しているようだ」
「えっ……」
ウミの言葉に、メノは驚いた顔をする。そして、少しだけ悲しそうな顔をした。
「そうですか。ならば、いずれは……」
「あぁ、戦う事になるだろうな」
言いながら、ウミは視線を瑛に戻した。瑛の姿は、既に消えている。
「甘い事は言っていられないが……出来得る限り殺したくはないものだ。そのためにも、まずは相手を知らねばなるまい」
そう言うとウミは踵を返し、その場から立ち去った。ライとメノも、それに続く。その様子を、地上に降りた瑛が見ていた。彼女は、ぽつりと呟く。
「あれは……そうか。奴が出てくるという事は、黄泉族の総攻撃も近いな……」