13月の狩人








第三部
















「今のカミルなら……ナメてかかってくる商人とか、いなさそうに見えるもの。充分、強気になれているわよ? なら……私達を殺して代行者の仕事を完遂しなくても、カミルの願いは……」

「全然だよ、テレーゼ。僕は全然、強気になってなんかいない。強がっているだけだ……! 僕の願いは、夢は! このままじゃ、全然叶わない!」

 そう叫んで、夢の中のカミルはクロスボウを掲げた。

 そう、夢だ。間違い無く夢だとわかる。

 何故なら、今のカミルは、今よりもずっと幼い顔立ちだったから。服装が、昔着ていた物だったから。鏡は無い筈なのに、今の自分の顔立ちや服装がどのようになっているのか、細部まではっきりとわかったから。

 そう、これは夢なのだ。あの時の。四年前、カミルとレオノーラが眠りに就く原因となった、あの時の。

 この後、カミルはテレーゼに説得をされ、それでも応じる事ができず、フォルカーに殴られる。そしてテレーゼ達の成長を悟り、〝代行者〟としての使命を放棄する事に決め。

 最後は、十三月の狩人に射られて、レオノーラ共々、二年の眠りに就く。

 はずだった。

 カミルは掲げたクロスボウをすぐさまテレーゼ達に向け、息つく暇も与えずに矢を射続ける。

 テレーゼが杖を動かす前に……治癒魔法を使う前に、フォルカーに追撃を与えた。テレーゼに反撃をさせないよう、杖を持つ手首を狙う。

 足下の砂地が、血に染まった。

 カミルは荒い息をしながらクロスボウを取り落とす。しばし呆然とした後、先程までは動いていた友人達を見下ろした。死骸となった二人を、見下ろした。

 絶叫が迸る。急激な眠気に襲われ、視界が暗くなり、十三月が終わる。

 そして、目を覚ました時……カミルは、立派な工房で一人魔道具を作っていた。机の上には依頼書が山積みとなっていて、カミルはせっせと手を動かし続けている。手は、いつの間にか大きくなっていた。顔立ちや服装が今と変わらなくなっているのがわかる。

 コンコンと、扉をノックする音が聞こえた。見た事も無い少年が姿を現す。

「若親方ー。そろそろいつものところ、行く時間じゃないですか?」

「いつものところ?」

 若親方、と呼ばれた事には違和感を覚えず、カミルは作業の手を止めた。すると、少年は少し心配そうな顔をして頷いた。

「お友達のところ、今日も行くんでしょう? 大丈夫ですか? 仕事がどんどん舞い込むようになったのは嬉しいが、最近の若親方は仕事をし過ぎなんじゃないかってヴァルター大親方も言ってましたよ?」

 どうやらこの夢の中でカミルは、仕事の依頼が引きも切らない売れっ子の魔道具職人になっているようだ。その稼ぎでヴァルターの店と工房を新しくし、自分の弟子とも言える少年まで店に加わったらしい。

 瞬時に理解し、カミルは頷いて立ち上がった。

「ごめん、ちょっと集中し過ぎてたみたいだね。大丈夫だから、心配しないで」

 そう言われて、少年はほっとした表情を見せた。そして、カミルにコートを手渡しながら言う。

「お友達……テレーゼさんと、フォルカーさんでしたよね。二人が目覚めるための薬を研究している学者さんを支援するために、お金が必要なんでしたっけ?」

「うん。だから、本当はもっと頑張って仕事を増やしたいんだけどね」

 コートを受け取りながら、カミルは頷く。

「なにしろ、もう四年も経つから……。早く二人に目覚めてもらうためにも……」

「だからって、若親方が頑張り過ぎて倒れたりしたら、お金を稼ぐどころじゃなくなっちゃうんですよ? もう少し自分を大事にしてくださいよ」

「そうだね……肝に銘じておくよ」

 少年とやり取りをしながら、カミルは悟った。これはあの時、テレーゼ達を殺す事ができた己の、今の姿だ。

 しかし、何故こんな夢を今更見たのか。先日、テレーゼ達と会った事が関係しているのか?

 会った事で、今のテレーゼ達に嫉妬してしまったのだろうか。

 だから、こんな夢を見ている?

 これが、自分が望んでいる世界なのだろうか……?











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