13月の狩人


























「……何とか、撒いたか……?」

廃棄用広場に捨て置かれた、ひっくり返った荷車。修復不可能なまでに車輪が壊れたそれを持ち上げ、辺りの様子を窺いながら、フォルカーが呟いた。

姿が見えないからと言って、撒けたかどうかはわからない。だが、矢が降り注いでこない事を考えると、今この辺りに、十三月の狩人はいないのだろう。

「さて……これからどうする?」

テレーゼが荷車の下から這い出してくるのを待って、フォルカーが問うた。

街中を走り回り、荷車の下に隠れている間に、陽はすっかり落ちている。空はやや紫を帯びた紺色となり、うっすらとだが星の姿も確認できるようになっている。氷響月の一日が終わろうとしているのだ。

今頃、今日の仕事を終えた者、友人と別れた子ども達、皆が皆家に帰り、夕食を摂ろうとしているのだろう。そう考えた瞬間に、テレーゼとフォルカーの腹が同時に、グーッと鳴った。

「お腹空いた……」

「そういや、今朝から何も食ってねぇもんな……」

二人とも、十三月を迎えた事で動揺し、一刻も早く誰かと合流しなければという一心から、朝食も食べずに家を出た。そのまま丸一日、何も食べる事無く、走り続けている。空腹を覚えないわけがない。

「とにかく、まずは腹ごしらえよね。幸いお金はある程度持ってきてるし……」

「じゃあ、どっかの食堂で飯でも……」

「ううん、食堂は駄目よ。パンか干し肉か……買えるだけの食料を買って、街を出ましょう」

テレーゼがそう言うと、フォルカーは不服そうに首を傾げる。

「何でだよ? この寒い中、ずっと走り回ってたんだぞ? あったかいモン、食いたくねぇのか?」

「そりゃ、食べたいわよ。けど、もし食べてる途中で十三月の狩人に見付かって襲われたら? 周りの、十三月の狩人の姿も矢も見る事ができない人達に迷惑をかける事になるじゃない」

「見れないなら、良いじゃねぇか。周りには矢が刺さったりとかしねぇんだろ?」

テレーゼは、はぁ、と深い溜め息を吐く。

「馬鹿。たしかに周りの人達に矢は当たらないけど、フォルカーの剣や、私の魔法は当たるのよ? 食堂が混んでたら、逃げ出すのも一苦労だし。それとも、襲われた時、無抵抗で殺される事になってでも、あったかいシチューが食べたい?」

「……わかったよ……」

不承不承頷くフォルカーに頷き返し、テレーゼは食料品を手掛ける店を目指して歩き出した。できればどこかでカミルと合流したいところだが、恐らくカミルの店は十三月の狩人が監視する対象となっているだろう。戻ればたちどころに殺される恐れがある。西の谷にあるテレーゼやフォルカーの家も同様だろう。

ドジな剣士と、高度な魔法を使えない魔法使い。そして現在生死すら不明の、人当たりが良過ぎる魔道具職人。この三人で、何とか怪談話のような存在、十三月の狩人から一ヶ月間、落ち着ける場所も、手助けしてくれる者も無いまま、逃げ続けなければならない。その難しさに、テレーゼは密かに唇を噛んだ。











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