13月の狩人
8
全力で走り、肺が破れるのではないかとまで思えてきた頃に、二人は中央の街へと辿り着いた。賑やかな大通りを抜け、市街地の中心から少し外れた場所にある、こげ茶色を基調とした建物の前に立つ。
「カミル……いるかな?」
互いに不安な顔を見合わせ、フォルカーがドアノブに手をかける。だが。
「……留守か……?」
フォルカーが掴んだドアノブは寸とも回らず、ただガタガタと音を立てるだけだ。
「カミルは十三月の狩人に狙われてないのかしら? それとも、まさかもう……!?」
「俺達みてぇに、合流しようとして入れ違いになったかもしれねぇな……だとしたら、早く探さねぇと……」
そこまで言って、フォルカーの耳がまたピクリと動いた。険しい顔で辺りを見渡し、「くそっ!」と毒づく。
「もう追ってきやがった! テレーゼ、一旦逃げるぞ!」
そう言って駆け出した瞬間に、またもあの黒い矢が次々に降り注いでくる。しかし、今回は周りに多くの人間がいるにも関わらず、誰一人として悲鳴をあげる者は無い。不思議そうな顔をして、テレーゼ達を見詰めている。
どうやら、十三月の狩人の矢は、獲物とされている者以外には見る事ができないようだ。恐らく、その姿も獲物以外には見えないのだろう。
つまり、例え事情を語って信じてくれる者がいたとしても、その人物からの援護は望めない。姿が見えないのでは、守りようも攻撃しようも無い。獲物とされているテレーゼ達だけで、何とかしなければいけないのだ。
走りながらその結論に辿り着き、テレーゼの顔は更に青褪めていく。そしてその間にも、黒い矢は間断無く降り注ぐ。石畳の街中では、先ほどのように砂埃を起こす事もできない。
矢が背中を掠める気配に慄きながら、テレーゼとフォルカーは走り続けた。どこに逃げれば良いのかは、まだわからない。だが、走らなければすぐにでもあの黒い矢に貫かれて死んでしまう。
脇目も振らず、二人はただ、ひたすらに走り続けた。