光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―





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「さて……これからどうする?」

古界の森を抜け出て草原を歩き出した頃、リアンがウィスに問うた。

「そうだね……。とりあえず、あれだけの騒ぎを起こしたからトーハイに行く事は絶対にできない。シンが王様に報告したらしい事から、王都ミャコワンも危険。シューハク遺跡島へ行きたいところだけど、多分湖東の町ウォートンやその周辺にも軍は派遣されてるだろうなぁ……」

「古界の森へ戻って、トゥルギ山脈を越えるというのはどうですか? 湖西まで行けば軍隊はいないと思いますが……」

チャキィの言葉にウィスは「そうだね」と頷いた。だが、すぐに「けど……」と言葉を濁す。

「古界の森にも軍が派遣されている可能性があると言っただろう? 軍がいるかもしれない古界の森に戻って、それを突破してから峻嶮なトゥルギ山脈を越えるのか?」

引き継いだリアンの言葉に、チャキィは「うぅ……」と悔しそうに唸った。それをフォローするように、ウィスは言う。

「けど、山を越えて湖西に回るって言うのは良い手かも……トゥルギ山脈が難しいなら、北の方に行くのもアリかな……」

「北と言うと、ルプー雪山か? 馬鹿を言うな。あそこは峻嶮なだけではなく、一年中吹雪いているような気候だぞ。しかも、ルプー雪山の手前にはホウツ氷海がある。死にに行くようなものだぞ」

険しい顔をしてリアンが反対を唱える。だが、ウィスは提案を取り下げない。

「けど、他に軍隊の目を掻い潜って湖西に回る方法は無いと思うよ? ……あ、ルプー雪山を登らなくても、ホウツ氷海からシューハク遺跡島に行く事はできないかな? ほら、ホウツ氷海とリルンベ湖って繋がってるから……」

「そうか! ホウツ氷海とリルンベ湖の境まで舟か筏を運ぶ事ができれば、ルプー雪山を越えなくてもシューハク遺跡島へ行けますね! ホウツ氷海はほぼ凍っていますから、上手くすれば氷の上を滑らせて楽々運べるかもしれません! さっすがウィス先生!」

チャキィが興奮して、大玉の上で空中一回転をしてみせた。「はしゃぎ過ぎるな」と釘を刺してから、リアンは暫し考え込む。

「運ぶ距離を考えると、ホウツ氷海の真横に位置する町レイホワで何とか筏か舟を調達し、ホウツ氷海を滑らせた方が良いか……。舟も筏も調達できなければ、諦めてホウツ氷海とルプー雪山を越えろという事だな」

「うん。とにかく他に人目につかずシューハクへ渡る方法が今のところ考え付かないわけだし……行くだけ行ってみれば良いと思うよ」

頷きながら、ウィスは荷物から地図を取り出した。自分達の世界から持ってきた物だが、内容はこちらの世界とほぼ一致すると、トーコク遺跡へ行った際に確認している。

「とりあえず、中継都市セツファンを目指そうと思うんだ。レイホワへ行く為には広くて寒いノウス雪原を通らなきゃいけないからね。……人が大勢いるところへ行くのは僕達の置かれた状況を考えると怖いけど……まずはセツファンで、食料と衣類を調達しようよ」

「はい! ……ところで、お金、どうするんですか? ボク達のお金とこっちのお金、同じとは限りませんよ?」

「うーん……同じなら良いんだけど……違ったら、どこかで日雇いの仕事でもするしかないかなぁ?」

心配そうなチャキィの問いに、ウィスも少しだけ心配している様子で呟いた。

「適当な家の前で教義を延々説き続けるか、チャキィが物乞いの真似でもすれば何とかなるだろう。今心配しても仕方が無い事で頭を悩ます時間があるのなら、とっとと行くぞ」

さらりと神官とは思えない発言をして、リアンはさっさと歩き出した。

「なっ……何ですかそれーっ!? せめて路上パフォーマンスで稼ぐって言い方をして下さいよっ!!」

「リアン……流石にそれはどうかと思うよ……」

顔を真っ赤にして怒りながらチャキィも動き出し、最後にウィスがしんがりを務めるように歩き出す。

周りに軍隊がいないか気を配りつつ、三人は雲の垂れ籠める北へと向かった。







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