光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―





03





「ミラージュ……? ミラージュって、あの? 神話とかによく出てくる……」

シンの呟きに、リノが不安そうに尋ねた。すると、シンは静かに頷き、まるで自分に言い聞かせるように言う。

「うん。リノも知っている通り、神話や伝説の物語中にはよくこの世界によく似ているんだけど私達とは違う……つまり人ならざる者が住んでいる世界が出てくるんだ。それらの通称がミラージュ……。まぁ、一言で言ってしまえば異世界≠セよね」

「けど! 何であれがミラージュだって言えるの? ひょっとしたら、光の屈折とか、何かの加減で何処かの町の蜃気楼が見えているだけかも……」

「蜃気楼から、モンスターが出てきたりする?」

リノの言葉を遮るように、シンが問うた。リノが戸惑って答えられないでいると、シンは構わずに話を続けていく。

「リノも知っての通り、この海は町と崖に囲まれていて、町の中を通らなければ来られないようになっている。けど、モンスター達が町の中を通った様子は無いよね? そうなると、モンスター達は海からやってきた可能性が高いと思う」

シンの仮説に、リノは頷いた。シンの説明に納得している様子だ。シンは、言葉を続けた。

「そして、モンスター達は皆ウルフ系の主に陸地に住んでいるような姿をしていて、海を長時間泳げそうな種はいない。加えて、近辺のモンスターに酷似しているとは言っても、この辺りでは見ない姿。これらから考えて、あの町には実体があり、あそこからモンスター達はやって来た。そして、あの町は私達が今まで見てきたのとは違うモンスターが生息している世界であると結論を出す事ができると思う」

一息に喋り、シンは一旦息を整えた。そして、「これでどうだ」と言わんばかりの表情で言う。

「神話と言うのは、実際にあった出来事を脚色して作り出した物語である、という説もあるよ。それも加味して考えれば、あの町が神話に出てくる神々が住む世界、ミラージュの元となった世界であると言う事は充分にできると思わない?」

そして、「それに……」と言ってシンは更に言葉を継ぎ足した。

「あの町の名が本当は何て言うかはわからないけど、呼び名が無いのは不便だと思う。だから、とりあえず仮の名前としてミラージュと呼ぶ事にした」

「……した、って……。そんな勝手に……」

「筋道を立てて説明すれば多くの人は納得してくれるんじゃないかな? 私は元々神話に関わる時代の遺跡をメインに調査してきた学者だから、説得力はそれなりにあるだろうし。それに、こういうのは最終的には言った者勝ちだと思う」

シンの言葉に、リノは溜息をついた。シンの、説明を聞けばなんとなく納得できるが説明を聞かなければ何故その結論に至るのかわからない話、を聞いているとどうもわけがわからなくなる。

「それよりもさ……」

「?」

シンが話題を変えるように呟き、リノは首を傾げた。シンは視線を仮にミラージュと呼ぶ事にした町に向けながら言う。

「さっきから、視線を感じない? ミラージュから……」

「え!?」

シンの言葉に、リノは慌ててミラージュを見た。だが、シンの言う視線のような物は感じない。

「私は何も感じないけど……その、ミラージュの人……かしら?」

「だとしたら、是非とも話をしてみたいよね。ただ、向こうが話し合いに応じてくれると良いんだけど……」

そう言いながら、シンは警戒するように剣を握り直した。

その時、ミラージュの中から、二つの人影が姿を現した。







web拍手 by FC2