ガラクタ道中拾い旅










第六話 証の子守唄













STEP4 家族を拾う

















「まったくもう……本っっっ当に、色んな意味で迷惑な奴らだったわねー。……あ、背中と手は大丈夫? ワクァ」

「あ、あぁ……」

手早く鞄から取り出した縄状の何かでクーデル達を縛り上げるヨシに、ワクァは少々呆けながら頷いた。背中は、痛みはあるがそれほど深くはないとわかる。手の方は捻ったような感じはあるが、恐らく骨まではダメージを負っていない。

クーデルを縛り終え、手をぱんぱんとはたきながら、ヨシは「そう」と言った。そしてワクァの背の傷を見、手を取り、本当にどうもなっていないかどうかを確かめる。

ヨシの目から見ても、大した怪我ではないと判断されたのだろう。ヨシは「うん」とホッとしたように頷くと、そのまま表情を変えずにワクァの頭をスパンとはたいた。

「っ!? 何をするんだ、ヨシ!」

「えー、べっつにー? 相も変わらず後先……と言うか、周りの気持ちを全っ然考えずに危地に飛び込んで死にかけようとするバカ王子様に、ちょーっと痛い目を見て欲しかっただけよ?」

「……」

そう言われてしまっては、ぐうの音も出ない。実際、剣が振り下ろされそうになっているあの場に飛び込んだ瞬間「ヨシに何か言われるな」とは考えてしまったわけだし。

「……済まない。嫌な思いをさせた」

素直に謝り、頭を下げる。その様子に、ヨシは頷いた。「二度とするなよ」と言うように。

「まぁ、素直に謝ったし。戦いの最中にも素直になれたし。今回は許してあげるとしますか」

「……戦いの最中?」

訝しげに首を傾げる。ヨシが、ニヤリと笑った。

「しっかり呼んでたじゃないの。父さん、母さん、って」

「……っ!」

瞬時に、ワクァの顔が赤くなった。それを見て、ヨシの顔は満足げに緩む。

「照れない、照れない。ほら、もう一度呼んであげなさいよ。今度はちゃんと、近くで、顔を見て」

言いながらヨシはワクァに後を向かせ、そのままドンッと背中を押す。ワクァはよろめきながらも、何とか倒れる事を堪え、そして顔を上げた。

目の前に、王と王妃が、目に涙を溜めて立っていた。

「ワクァ……お前は本当に、ワクァなんだな……?」

「無事で良かった……あなたが死ななくて、本当に……」

微かに震える声で。そう言って、恐る恐るながら近付いてくる二人に、ワクァも一歩、恐る恐る、歩み寄った。

そこから先は、身体が勝手に動いた。

口が、勝手に開き、声を発した。

「父さん……母さん……!」

よろめきながら、どこか頼りない足取りで進み出たワクァを、王と王妃がしっかりと抱き留める。王の大きな手が、王妃の優しい手が、その存在を確かめるように、ワクァの頭や肩を優しく撫でる。ワクァもまた、腕を回して、二人の事を抱き締める。再び失う事の無いように、しっかりと。

その様子を満足そうに眺めてから、ヨシはくるりと踵を返す。

「まふ?」

不思議そうな顔で見上げるマフに、ヨシは人差し指を口に当て、「しーっ」と小さな声で呟いた。

「このまま、呼ばれるまで外に出てましょ。いくら感動のシーンでも……やっぱり、号泣してるところは人に見られたくないものね」

そう言って、ヨシとマフは足音を殺し、静かに謁見の間から出て行った。あとに残されたのは、十六年間、耐え続けてきた三人の親子。三人は、失われた十六年分のぬくもりを取り戻そうとするように、いつまでも抱き合っていた。ボロボロと涙を流し、嗚咽を漏らしながら。いつまでも、いつまでも。





# # #





その日、ヘルブ街は……いや、ヘルブ国は、一度に起こったいくつもの大ニュースに、大騒ぎとなった。

曰く、十六年前に亡くなった筈の王子が、実は生きていたという。

曰く、宰相のクーデルが、クーデターを起こしたという。

曰く、その亡くなっていたはずの王子が、クーデターを鎮静させたという。

曰く、王はしばらくの間様子を見たのち、性状に問題が無いようであればこの王子を太子として立てるという。

長い間不安の種となっていた世継ぎ問題が解決するとわかり、街の者達はホッと安堵の息を吐いた。もっとも、当の王子は立太子する事にはかなり消極的らしい。その権力への欲の無さが、街の者達を更に安堵させたという。

一気に祝賀ムードへと転じたヘルブ街の、陽が落ちかけた茜色の空に、王妃の子守歌が響く。その穏やかな音色に、人々は本当に王子が戻ったのだと実感し、王と王妃、そして王子の十六年間を想い涙した。

子守歌は、全ての人々を包み込むように、空の中へと融けていく。十六年間歌われる事のなかった最後の歌詞が、人々の耳朶を打った。



おかえりなさい夢の旅人

あなたの帰りを待っていた

あなたを抱けるこの喜びを

与えてくれてありがとう







(第六話 了)










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