ガラクタ道中拾い旅










第二話 守人の少年











STEP3 厄介ごとを拾う











講堂に要求を書き付けた紙切れが持ち込まれてから数十分……。マロウ家の屋敷の門前では、三名の盗賊が見張りにつき、常に辺りを警戒している。そろそろ、約束の一時間が経ち、街の人間が現段階の状況を報せる文書を届けに来る頃だ。

「おい……」

一人の盗賊が、隣に立っていた男を肘で小突いた。小突かれた方が首を向けると、小突いた方は言葉を発さずに顎で彼方を指した。見れば、街の人間と思わしき影が三つ、こちらに向って近付いてくる。四十代後半と思われる男が一人、十代後半であろう娘が一人、十歳かそこらの少年が一人、だ。

盗賊達の目の前に着くと男は歩みを止め、娘と少年に屋敷へ向うよう促す動きをした。それに無言で頷き、娘と少年は門に歩を進める。

娘は足首まで隠れるような裾の長い薄水色の衣服を身に纏っている。黒く長い髪と、透き通るように白い肌が美しい。

少年は薄汚れた柿色のトレーナーにウコン色の鞄と、美的感覚が正常であるならば少々眉を顰めたくなるような出で立ちだ。黒い丸縁眼鏡が、より一層みすぼらしさを増している。

二人は門まで歩いてくると、恐る恐る盗賊達の顔を見渡した。娘が、おずおずと盗賊の一人に言う。

「あの……一時間経ちましたので、報告の文書を持って参りました……」

緊張の所為だろうか。その声は、少し上ずっている。俯き気味でよく見えずともわかるほどに美しいその娘の顔を覗きこみながら、盗賊は満足そうに言う。

「そうか。……ん? 小僧、何だその鞄は?」

「あ! これは……」

ふと、少年の鞄に眼が行った盗賊は、睨み付けながら少年に問うた。少年は咄嗟に言葉を発したきり、ビクビクして何も答える事ができないでいる。

「妙なもん持ち込んで、暴れようってんじゃねぇだろうな?」

そう言って、隣で同じように娘の顔を覗きこんでいた盗賊が、少年の鞄を無理矢理開け、中身を引っ掻き回した。だが、中に入っているのは星の砂にぬいぐるみなど、価値の無さそうな物ばかりだ。盗賊は、思わず呆れて言う。

「何だこりゃ。ガラクタばっかじゃねぇか! ったく……ガキって奴は、何だってこうくだらねぇモンばかり持ち歩きたがるんだか……」

だが、ガラクタばかりで使えそうな物が何一つ無い事に安心したのだろう。彼は特に何かを咎めるでもなく、少年の鞄から手を離すと言った。

「まぁ良い。入れ」

そう言って娘と少年に、屋敷の中に入るよう促す。娘と少年は、軽く会釈をして盗賊達の前を歩いていく。二人を通した後に、盗賊達は興味を隠しきれない声で言葉を交わした。

「おい、今の娘見たか? すっげー美人だったな」

「あぁ……こんな小さな街の娘にしとくのが勿体無ぇくらいだ」

「あぁ〜あ……あの娘が文書を持ってきた人間じゃなけりゃな〜」

文書を持ってきた人間じゃなかったらどうするつもりなんだ、と野暮な問いをする者はこの場にはいない。そのまま、会話は進んでいく。

「我慢しろよ。手ェ出して何かあったら、お頭にぶっ殺されっぞ」

「……で? そのお頭はどうしたんだ? この屋敷に立て篭もってから、指示の一つも無ェじゃねぇか」

「さぁな。ま、何か考えがあるんだろ。お頭の指示があるまでは大人しくしてようぜ」

そう、一人が言うと、他の盗賊は退屈そうに腕を組み、呟いた。

「あぁ〜あ……つまんねぇなぁ……」

その成り行きを、遠くから見守っていた人物がいる。先ほど娘と少年を送り届けてきた男だ。彼は、驚いたような感心したような……そんな顔をすると、ぽつりと誰にも聞こえないような声で呟いた。

「ワクァさんの言った通りだ……」








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