ガラクタ道中拾い旅










第一話 双人の旅人











STEP0 相棒を拾う











「何だと? それは本当か……!?」

数分後、ワクァに連れられたヨシからの報告を聞いた屋敷の主人、アジル=タチジャコウはヨシを睨み付けるかのような表情で問うた。それに臆する事無く、ヨシは言う。

「誰がこんな事を冗談で言いますか! 一歩このタチジャコウ領から出れば、その噂で持ち切りよ! 知らないでいるのは、被害に遭うであろう当の本人……タチジャコウ領の人間だけだわ。この土地に入った時、ちょっと危機感が無さ過ぎなんじゃないのかな〜とか思ったけど、まさか噂を知ってすらいないとは思わなかったわ」

呆れたように言うヨシを引き続き睨みながら、アジルは更に問う。

「フン……とりあえずは、その言葉を信じるとしよう。だが、私が訊きたいのはそれだけではない。そんな情報を得ていながら、何故お前はこのタチジャコウ領に入った? 盗賊が入るとわかっている土地にわざわざ行く必要はあるまい。そして、このタチジャコウ領の危機を報せる為とは言え、何故わざわざ邸内に侵入し、あまつさえワクァの部屋などに行った? 奴隷を仲介せずとも、正面から来れば良い話だと思うのだが?」

「タチジャコウ領に入ってきたのは、例え盗賊が来ても四大貴族の一つであるタチジャコウ家が守っているのなら大丈夫だろうと思ったから。まさか盗賊襲来の噂さえ知らず、何の備えもしてないなんて思いも寄らなかったもの。他の土地に行こうと思ったら、着く前に日が暮れて野宿するハメになっちゃうし。まぁ大丈夫だろうと思ったから入ってきたってワケ。屋敷には正面から入れば良いとか簡単に言うけど、突然尋ねてきた私が門前で「主人に会わせろ」って叫んだとして、すんなり通してくれる? 不審人物扱いされて、いつまで経っても話が出来ず盗賊襲来……なんて事にもなりかねないわ。だからとりあえず侵入して、そこのワクァくんに事情を話してここまで連れてきてもらったのよ。奴隷って言うけど、それでも突然現れた不審者よりは信用できるでしょ?」

アジルの言葉に、ヨシは詰まる事無くすらすらと答える。盗賊襲来の噂を知っていながらタチジャコウ領に入った理由は、本当かもしれない。普通なら先ほどヨシが言った通り、盗賊を恐れて入ってこないものだが……彼女は一般の人間に比べて相当楽天的であるように思える。どれだけ危険が迫っていようとも、「まぁ、何とかなる何とかなる」という言葉だけで済ませていそうな気がする。そう考えれば、その理由でも納得できる。

だが、タチジャコウ家を訪ねてきた元々の目的はワクァと話をし、可能であれば彼を旅の仲間にスカウトする為だ。タチジャコウ領の危機を報せに来たワケではない。なのに、本当にそのような理由で尋ねてきたかのような立て板に水を流すが如くの返答を聞き、ワクァは内心感心していた。人間というのは、ここまで偽りを作り出せるものなのか、と。

そんなワクァの内心なぞ知る由も無く、アジルは「ふぅむ……」と考え込むと、険しい顔付きで言う。

「噂の真偽はわからんが……事態は急を要するな。……わかった。今すぐ斥候を飛ばし、タチジャコウ領周辺の様子を探らせよう。……ワクァ!」

「はっ……はい!?」

急に名を呼ばれ、ワクァは雷で打たれたかのようにビシリと固まりながら返事をした。そんなワクァに、アジルは言う。

「何をボサッと突っ立っているんだ!? 噂が本当だった時に備え、すぐに戦闘の準備に取り掛かれ! お前はこの家の執事ではなく傭兵奴隷なんだ……こんな時に役に立たなかったら、承知せんぞ!!」

「はいっ!!」

返事をしたかと思うと、ワクァは弾かれたように駆け出し、あっという間に姿が見えなくなった。慌ててはいるが、内心、この場を離れる事ができてホッとしている事だろう。如何見ても、ワクァとこのアジルは相性が悪い。相性だけでなく立場も悪いのだから、ワクァがアジルを恐れるのも仕方の無い事だ。

ぼんやりとそんな事を考えるヨシに、アジルは言った。

「そこの娘……わざわざこのタチジャコウ領の危機を報せにきてくれた事に感謝しよう。……そうだ。折角だから、今夜はこの屋敷に泊まっていくと良い。お前が泊まっている宿屋には後ほど使いをやり、荷物を持ってこさせよう。この屋敷は領内で最も安全な場所だ。この屋敷の中にいれば、盗賊に襲われる事も無い。折角タチジャコウ領を訪れたというのに、そこで危険な目に遭ってはお前も納得がいかないだろうからな」

つまり、貴族の屋敷にありがたくも泊めてやるんだから、タチジャコウ領主が噂を全く知らず備えも全く無くて、盗賊の襲来を知ってから慌てて準備を始めるような能無しだと旅先の各地で広めてくれるなよ……という事か。回りくどい言い方だが、恐らくはそういう事なのだろう。まぁ、口止め料としては妥当な所ね。元からどっかで喋る気なんて全然無いんだし。

そんな事を考えながらも、表面上はしおらしく取り繕いながらヨシは言う。

「それじゃあ……お言葉に甘えさせて頂くわ。盗賊対策をどうしようって思っていたところだったし」

そう、あっさり話が纏まると、アジルはメイドを呼び、ヨシを客間へと案内させた。客間への行きがけ、廊下の窓から外を見れば、太陽は少しではあるが傾き始めていた。

あと三時間もすれば、夜がくる……。







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