葦原神祇譚






22








ピリリリリ……と、甲高い着信音が鳴り響く。指令室で待機していた神谷は素早く携帯を取り出し、耳に当てた。そして、難しい顔で暫く相手の話を聞いていたかと思うと、電源を切り、歩き出す。

「……どこからだい、伝?」

天の問いに、神谷は一時足を止めた。

「黄泉国に随行させておいた方の霊からだ。瑛が造化三神をおびき出すのに成功した」

「……伝兄さん、桃を採りに行った組からの連絡は……訊くだけ、野暮だよネ……」

彦名が、少し不安そうな顔をする。霊的力を持つ桃を探しに行ったオロシ、マドカ、ウミ、ライ、夜末からは連絡が無い。採りに行った者が戦力となる者ばかりというのが、何とも苦しい。だが、目的の桃が採れそうな場所に短時間で行ける上、多少の危険があっても対処ができる者は限られてくる為仕方が無い。

「……面倒だが、俺も出る。どこまで瑛達の力になれるかはわからないが……いないよりはマシだろう」

それだけ言うと、神谷は慌ただしく指令室から駆け出ていった。その後姿を不安そうに見詰めながら、礼が天の袖をぎゅっと握った。

「天ちゃん……母様達、大丈夫かな……?」

「……ボクには何とも言えないな。勝利を安請け合いできるほど、造化三神は生温い相手じゃないよ。それは、今までの瑛達を見ていれば兄上にも何となくわかるだろう?」

礼は、暗い面持ちでこくりと頷いた。

「だけど……簡単にやられてしまうほど、瑛――母様達は柔じゃないよ。何だかんだ言って、ボクには母様達が負けるところなんて想像できないでいるんだから」

「天ちゃん。でも……」

希望と不安、礼はどちらを信じて良いのかわからない様子だ。そんな礼に視線を合わせ、天は思い切って言った。

「なら……見に行くかい?」

「え……?」

「母様達は、きっと負けない。そう信じられるから、ボクは戦いの場に行けるよ。母様達が勝つのなら、危険な事は無い。……そうだろう?」

礼よりも先に、要が反応した。顔が、かつてないほどに蒼ざめている。

「天照様! 瑛さん達を信じられるからと言って、戦いの場が危険じゃないわけではないですよ!? もし、天照様に万が一の事があったりしたら……」

「大丈夫だよ」

「!」

言葉を失った要の視線から目を逸らすように、天はモニターの一つを見た。黄泉族の門が現れ、仁優、メノ、瑛が次々に飛び出してくる様子が映っている。

「瑛も、それに――まだ頼り無いけど――仁優も、ボク達が信じている限り、きっと誰も死なせる事無く守り切ってくれるよ。だから、ボクも彼らの信頼に応えないとね」

「天照様への信頼……ですか?」

「瑛も仁優も、それに多分、伝や朝来も。ボクが天照として、葦原中国を光で照らし続けていると信じてくれているんだよ。照らし続けて、闇を弱らせ、祓うとね」

ならば、己が為すべきは闇を照らし、弱らせる――造化三神の闇を浄化する事だろうと、天は言う。

「近付けば近付くほど、ボクの光は届き易くなる。造化三神の力を弱め、瑛達の援護をする為にも……ボクは行かなきゃいけないんだ」

「……」

暫くの間、要は目を閉じ考えていた。だがやがて、覚悟を決めたかのように目を開く。

「……わかりました。勿論、僕もお供をします。命と代えても、天照様をお守りします。絶対に……!」

「僕も行くヨ。怪我人が運び込まれるまで待ち続けるのって、かなり不安になるんだよネ」

「私も行くわ。戦闘には参加できないけど、応急手当くらいなら……」

名乗りを上げた彦名と奈子に、天は苦笑した。

「結局、全員で行く事になるね。……自分で言い出しておいて何だけど、瑛に足手まといばかり来るんじゃない、とか怒られそうだよ」

そう言ってから、天は「ん?」と首を傾げた。その場にいる全員の視線が、自分に注がれている。その理由を暫く考え、何かに思い至ったのか「あぁ」と呟くと、天は右手の人差し指を口元に当てた。

「ボクが瑛の事を母様って呼んだ事は、ここにいる者だけの秘密だよ?」

そう言う顔はバツが悪そうで、そしてちょっぴり、照れ臭そうだった。






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