双子座敷童の憂鬱















日本人は占いという奴が大好きだ。

更に突き詰めると、占いという名の性格診断が大好きだ。

勿論、全ての日本人がそうだというわけじゃない。信じていないし、それを話題に盛り上がる事自体が嫌だという人だって少なくないだろう。

けど、やっぱり性格診断が大好きな人間が日本人には多いわけで。本屋に行けばそれを裏付けるように、関連書籍が並んでいる。

動物占いに血液型占い、干支占いに、姓名判断、手相診断、果ては前世占いなんて本まである。その中でも特に多いのは、星座占いだろう。

血液型占いの本も負けず劣らず多いと言えば多いが、四分割と十二分割ではやはり後者の方がネタがあるし、何より星座の由来となる神話があるから、感情移入もし易い。だからと言うわけじゃないが、やっぱり一番多いのは星座占いの本だと思う。

……で、だ。その星座占いの本だとか、インターネットの星座別性格診断とか。そういうのを見ていると、双子座の項目にはよくこう書いてあるんだよ。



風通しのいい場所にいる事が、双子座にとっては重要。

組織の空気が悪くなってくると、双子座は真っ先に逃げ出します。

双子座が逃げ出した後の組織は、空気が更に悪化し、潰れる事もあります。



この文章を初めて見た時は、こう思ったもんだ。座敷童かよ、と。

座敷童ってのは、お馴染みの日本の妖怪だ。主に商家に住み着いて、座敷童が住み着いた家は繁栄する。しかし、家の者が調子に乗って努力を怠るようになると、座敷童は出て行ってしまう。そして、座敷童に出て行かれた家は没落してしまう、と。

よくよく考えれば、努力をしていれば家はある程度繁盛するだろうし、努力を怠れば家が没落するのは当たり前。別に、座敷童がいてもいなくても、それほど結果は変わらない。

座敷童が家の運命をどうこうしているんじゃない。繁栄しそうな空気を感じ取って座敷童がやってきて、没落しそうな空気を感じた瞬間に逃げ出しているんだ。

そう考えると、双子座イコール座敷童、という考え方はあながち間違っていないと思う。繁栄するかどうかは置いておいて、少なくとも没落しそうな空気を感じ取った瞬間には逃げ出しているんだから。

……え? 全ての双子座がそうとは限らない?

うん、確かにそうだ。全ての双子座がそうとは限らない。けど、俺の場合はばっちり当てはまる。

六月十日生まれ、双子座。

学生時代のバイト先は五件全てが潰れました。全部、俺が辞めた後の話です。卒業する時に正社員登用の話、断って正解だったね。

最初に就職した会社は、俺が辞めた後に更にバタバタと人が辞めて、深刻な人手不足だそうです。

次に中途採用されたブラック企業は、やっぱり俺がいなくなった後、新たに採用した新人が居つかず、ベテラン勢にしわ寄せがきているそうです。ざまあみろ。

そう言えば、何年か前に趣味で所属していた社会人サークル。俺が辞めた後からブログの更新が滞り始め、ここ十数ヶ月は広告が出っ放しです。

あまりにも、潰れ過ぎ。潰れなくても、人手が間に合わず大変な状態にはなる。

まさに座敷童。ただし、繁栄はもたらさない。

こんな事が続くと、俺ってどこかに所属するのに向いてないのかなぁ……。俺、組織を駄目にして潰してしまう特殊スキルでも備わってんのかなぁ……。なんて、馬鹿馬鹿しい事を考えてしまったりするわけですよ。馬鹿馬鹿しいって自分で言ったけど、本当に憂鬱だよ? その都度凹んで、落ち込みます。

こんな俺ですが、現在の職場は今のところ没落の空気が無くて、ホッとしています。このまま、定年まで楽しく働ければ良いんだけどなぁ。

……おっと、のんびりアットホームな職場だからって、のんびりし過ぎたかな。コーヒータイムの長い俺の事を、事務員さんが睨んでいる。

「いつまで休憩しているんですか? そろそろ次のお家に向かってくださいよ、双子座敷童さん」

はいはい。

あ、そうそう。言い忘れていたけど、実は俺、前に勤めていたブラック企業で過労死と言う名の一抜けをしてしまいまして。辞表も出して、あと一日で死なずに辞められるはずだったんだけどねぇ。

そんなわけで、何の因果か死後に妖怪へと変じた今、この妖怪派遣会社で本物の座敷童として働いています。登録名は、双子の兄弟なんていないけど「双子座敷童」にしてみたよ。

双子座で、座敷童だから、双子座敷童ね。どうでも良いか。

相変わらず繁栄させる事はできないんだけど、そこは妖怪の嗅覚。没落しそうな空気の他に、繁栄しそうな空気も読めるようになりました。良さげな空気の家を見付けたらそこに住み着いて、没落しそうになったら出て行く簡単なお仕事です。

おっと、また事務員さんに睨まれた。これ以上のんびりしていたら、査定に響くかな?

それじゃあ、ちょっといってきます!













(了)








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