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光と陰と蜃気楼―Tales of Mirage―
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「あら、シン。アンタってば、また神話の本を読んでいるの? それ、そんなに面白い?」
「母さん。うん、面白いよ。神様が妙に人間臭い失敗をするのも面白いと思うけど、やっぱり一番面白いと思うのはミラージュの存在かな? 神話っていうのは、昔実際に起こった事を下地に創作されてるって説があったでしょ? それを前提に考えると、この人間臭い、私達にそっくりな姿の神様が住む世界はどこかに存在するって事になるんだよ。興味深いと思わない?」
「私には、十五歳でそんな考え方をして、そんな目で神話を読んで楽しむ我が娘の性格の方が興味深いわ……」
そう言って母親は溜息をつき、シンの目の前に座る。
「ところで、シン。今から私は、アンタの性格に負けず劣らず変わった質問をするわ」
「何?」
本を閉じ、シンは母親の顔を見た。母親は、少しだけ迷った様子を見せてからシンに問う。
「もし……もしよ? そのミラージュに行ける事になったら、シンはどうする? そこに住んでも良いって言われたら、住む?」
「住まないよ」
躊躇い無く、シンは断言した。
「自由に行き来ができるなら、行って調べて歩きたいとは思うよ? けど、一方通行で戻ってこれないなら行きたくないな。リノと会えなくなるのは嫌だし。そもそも、いくら私達やこの世界に似てると言っても、神様の世界だよ? それが死後の世界という意味なのか。本当にこの世界以外にも世界があって、その世界の事をミラージュと言うのか。それはわからないけどさ……。そこに住むと、何だか自分が特別な存在になったと勘違いしそうだし……それが、凄く嫌だ」
「それが、例えば私や父さんと一緒だったとしても?」
「……母さん、一家心中でもする予定があるの? もしそうなら、私はしばらくリノの家に泊まらせてもらう事にするよ?」
睨みながら言うシンに、母親は「しないわよ、そんな事」と笑った。
「まぁ、ミラージュの事は研究しておいた方が良いかもしれないわね。興味があるなら、そのまま世界で一番ミラージュについて詳しい学者にでもなるつもりで頑張りなさいな」
「? 何でミラージュを研究しておくと良いと思うの?」
「さぁ……何でかしらね?」
少しだけ寂しそうに笑ってそう言う母親に、シンは怪訝な顔をして首を傾げた。そんなシンの頭を撫でながら立ち上がり、母親は台所へと向かう。
「さて、父さんが戻ってきたら夕食にしましょう。今日は白身魚のフリッターよ。美味しいわよー!」
「嫌と言うほど知ってるよ。この五日間、毎日それじゃない。文句は言いたくないけど、流石にちょっと飽きたかな……」
「あら、前に作った時、美味しいって言ってくれたじゃない」
さも心外だと言わんばかりに母親は言う。シンは少しだけ眉を寄せた。
「そうだけどさ……。母さん、本当に今日どうしたの? 妙にテンションが高いみたいだけど……」
「あら、そう?」
そう言って、母親は台所へ入っていった。そんな母親の姿を苦笑しながら見送った後、シンは再び本を開いて視線を落とす。
その翌日、シンの両親はトーハイの町から姿を消した。