龍士守護旅












「もう、行っちゃうんだ」

のどかな村の出入り口で、美明は少しだけ寂しそうに言った。それに対し、紅福はバツが悪そうに苦笑して言う。

「あぁ。美明が言った通り、あれだけ暴れたら悪質な龍コレクターに狙われ易くなるからな……。いつまでも同じ場所にいる事なんてできねぇよ」

「そっか……。もっと色々な話を聞きたかったのにな。他の村の様子とか、龍や龍士の話とか……煉君のお父さんの話とか……」

その言葉に、紅福と煉、それに見送りに来ていた老人達が少しだけしんみりとした。その空気を打ち払うように、煉が言う。

「……お姉ちゃん! 僕達、龍道に行って、保護してもらって……強くなったらさ、また来るよ、この村に! その時はたっくさんお父さんの話をするからさ、聞いてね!」

「えぇ、約束よ!」

にっこりと笑って言う煉に、美明も明るく笑った。そう言えば、ここまで明るく笑う美明を見たのは、この村に来て初めてかな、と紅福は思う。

そして、その様子に満足げに笑うと、紅福は美明に声をかけた。

「それじゃ、そろそろ行くよ、俺達」

「あ、待ってよ、兄ちゃん!」

そう言って歩き出そうとする紅福達を、美明は「あ、待って」と言って引き止めた。そして、「これ……」と言いながら大きな包みを渡してくれる。

「? これ……弁当じゃん。何? くれるの?」

紅福の問いに、美明は「そう!」と力強く頷いた。

「また飢え死にしたりしないようにね。お昼にでも食べてちょうだい」

「……サンキュー……」

この村に来た時の事を思い出し、紅福は苦笑した。それを見て、村人達もまた笑う。

「お姉ちゃん、ありがとう!」

「うん。……あ、それから……」

思い出したように美明が言ったので、紅福は何事かと期待してしまう。

「え? 何? まだ何かあるのか?」

すると美明は頷き、空の右手を紅福に差し出しながら言った。

「宿代と、夜と朝の食事代。二人合わせて二百元ね」

言われた途端、紅福はずっこけた。あまりに綺麗にこけたため、煉は目を見張って「わー……」と呟いている。

「金取るのかよ!?」

この流れでそれはない、とばかりに紅福が言うと、美明は「当たり前でしょ」と言った。

「食堂の維持費って、結構かかるんだから! 守る人を守りたい、んでしょ?」

「う……」

行動理念を持ち出され、紅福は言葉に詰まった。その様子に煉は、あははと笑っている。

「兄ちゃんの負けだね」

「畜生……持ってけドロボー!」

情けない顔で財布を取り出す紅福に、村人達はまた笑った。半ば冗談だったのか……美明も苦笑している。

「どうも。お昼のお弁当代はサービスよ」

「そりゃどうも……」

そう言って、紅福も苦笑した。そして財布をしまい、背筋を伸ばすと、笑いを収めて言う。

「それじゃあ、そろそろ本当に行くよ」

「またね!」

そう言って、紅福と煉は村の外へと歩き出す。

「また来いよ!」

「うん! 元気でね!」

「旅人君達もな!」

「心得ておくよ!」

「道中達者でな!」

「気を付けるんだよ!」

「話を聞かせてもらうの、楽しみにしてるからね!」

「あぁ!」

「うん!」

明るく言葉を交わし、紅福と煉は再び龍道を目指して旅立った。二人ならきっと行けるはず、もっとたくさんのモノを守れるはず。そんな想いを、胸に抱いて。





炎は、少年から多くの物を奪い去り、数日後に消え去った。その頃の少年にはもう、叫ぶ事で紛らわせる悔しさも悲しさも、残っていなかった。

少年に残されたのは、自分の半分しか生きていない少年と、健康な身体。そして……守りたい≠ニいう、気持ち。








(了)



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