アフレコ倶楽部大宇宙ボイスドラマノベライズ

霧隠荘殺人事件





























鬼頭のいびきが、ダイニング中に響き渡る。和島が、困ったようにテーブルに突っ伏す鬼頭の肩を揺さぶった。

「鬼頭。ねぇ、鬼頭。寝るなら、部屋に戻りなよ。こんなところで寝たら風邪ひくからさ」

「あぁん? んだよ……どこで寝ようと、俺の勝手……」

そこで言葉は途切れ、むにゃむにゃという声だけが聞こえてくる。南や富田夫妻も、困った顔をした。

「あの……部屋のベッドで寝た方が、寝心地も良いと思いますよ?」

「あんたももう歳なんだから、そんな格好で寝てたら明日の朝、腰痛になるわよ」

「あーあー、わぁかったよ……うるせぇなぁ……」

二人の声に、鬼頭は五月蠅げに立ち上がる。相当飲んだのだろう。立ち上がるのすら、覚束ない。

「……完全に酔ってるな」

「なー。足元が千鳥足なんてレベルじゃねぇぞ。動きがタコみてぇ」

泉が茶化すように、クネクネと踊って見せる。それにも気付かないほど、鬼頭はふらふらとしていた。

「ほら、しっかり立てよ、鬼頭。……和島、お前そっち側の肩支えてくれ」

「わかった」

勇作と和島とで、鬼頭の肩を支える。正樹が、恐る恐る声をかけた。

「あの……俺達も手伝いましょうか?」

言われて、和島は「あぁ……」と呟き、少しだけ考える素振りを見せた。

「あぁ……じゃあ、念のためについてきてもらえますか? ひょっとしたら、ひょっとするので……」

「? わかりました」

よくわからないまま立ち上がり、正樹は和島達の後に続く。

「なんかよくわかんねぇけど、俺も行くー!」

刺激的な臭いでも感じ取ったのか、泉も正樹と共に歩き出す。そして、皆で客室のある二階へと向かった。





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「ほら、しっかり歩け、鬼頭。お前の部屋、何号室だ? 覚えてるか?」

鬼頭を引き摺るようにして歩きながら、勇作が問う。その顔は、既に苦しそうだ。それもそのはずで、鬼頭の体はかなり大きい。二人がかりでも、運ぶのは一苦労だろう。

しかし、そんな事は酔った鬼頭には関係無い。……いや、酔っていなくても関係無いのだろうが。勇作の問いに、「あぁん?」と低い声を発して睨み付けてきた。

「馬鹿にすんじゃねぇよ。206号室だよ、206号室。ここが203号室だろ? んで、ここが204、205……206……ここだ、ここ」

引きずられながら、扉を数えていく。そして、206号室の前で一同は足を止めた。

「ほら、扉はオートロックだから、鍵出して」

「わかってるっつの。指図すんじゃねぇよ」

鬱陶しそうに言いながら、鬼頭は尻ポケットから鍵を取り出す。鍵穴にはめて、ガチャガチャと回そうとした。しかし、扉は一向に開く気配が無い。

「あぁん? 開かねぇぞ。どうなってんだぁ!?」

「酔っぱらってるから、鍵が上手く差し込めないんだろ。貸してみろ」

苦笑しながら、勇作が手を差し出す。しかし、何がどこにどう触ったのか、鬼頭はいきなり吼えだした。

「ふざけんな! 俺の部屋の鍵だぞ! てめぇなんざに貸すもんか! 俺の部屋の鍵手に入れてどうするつもりだ? 寝てる間に、財布盗もうってんなら、そうはいかねぇぞ。あぁっ!?」

「うわっ、危ねっ!」

いきなり突き出された太い腕を、泉は辛うじて避ける。今まで鬼頭を支えていた和島と勇作は、振り払われた。

「おい、鬼頭! 暴れるな!」

「市村さん! 済みませんが、抑えるのに手を貸して下さい!」

悲鳴のような和島の要請に、正樹は頷きながら駆け寄る。続いて、和島は泉にも叫んだ。

「佐竹さん! キッチンの電話台の横にキーボックスがありますから、そこから206号室のスペアキーを取ってきてもらえませんか!? ここにいると危ないですから!」

「わ、わかった……!」

「お、何だぁ!? 放せチビ! 逃げんなクソガキゃア!!」

「誰がチビだ! お前がでか過ぎるだけだろ、この酔っ払い!」

(やっべぇ。正樹も大分頭にきてるよ。急がねぇと……!)

背後に聞こえる怒鳴り声の応酬に顔を青くしつつ、泉は慌てて階段を駆け下りた。











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