星空を君に
星を贈るよ。君の誕生日には、毎年、必ず。
星が大好きだと言った君に、そう約束したのは、もう何年前だったかな?
約束をした最初の年に贈ったのは、星の形をしたおもちゃのイヤリングだったっけ。君は何度も「可愛い!」と叫ぶぐらい、喜んでくれたよね。
逆に、その次の年に贈った本は不評で残念だったな。世界の国旗を集めた図鑑。星の入った国旗もたくさんあるから、面白いと思ったんだけど。君は、国旗だけの世界よりも、色々な国の人々や、食べ物や、文化や……そんな世界が見たかったんだろうね。今なら、わかる気がするよ。
他にも、色々な星を贈ったっけ。それらを見る度に君は、喜んだり、苦笑したり、呆れたり、笑ったり。その表情が、どれも本当に魅力的だったから。段々僕も、星の贈物を探すのに夢中になっていったんだ。
旅行先で見付けた星。新しい勤務先で見付けた星。これだ! と思う物はあったけど、現物を見付けられなくてインターネット通販で取り寄せた星……。
スターフルーツ、星の砂、星座の早見盤、星型ビーズが煌めく万華鏡に、オルゴール、ぬいぐるみ。絵本も、たくさん贈ったっけ。
どれも、必ず星をモチーフにした物だった。君が、星が大好きだと言ったから。大好きな君に、君が大好きな物をあげたかったから。
そんな君に、僕は今年も星を贈る。日本時間に合わせた時計を確認して、デッキの窓から見える世界を背景に撮影したビデオメッセージを、君のアドレスに向かって送信した。
『誕生日、おめでとう。今年の誕生日プレゼントはなんと! 宇宙空間で撮影した、超至近距離での星空だよ! ビデオとは別に写真も添付しておくから、そっちも是非見て欲しい。気に入って貰えると良いなぁ!』
そう。今僕は、宇宙飛行士として地球の外にいる。星が大好きだという君の誕生日に、宇宙空間にいる事ができるなんて、なんてラッキーなんだろう。
日本時間で深夜の零時を回っていたけど、君は起きていたんだね。宇宙と地球の間で通信をやり取りするタイムラグは本当に存在するのだろうか、と疑いたくなるほど早く、君が返信をくれたのには驚いた。
『今年も素敵な星をありがとう! 三枚目の写真が、特に良いね! 早速ネットで、ポスター印刷をしてもらえるよう注文しちゃった!』
早いよ。
喜んで貰えたようで良かった。……けど、僕にしてみれば、本気で喜ぶのはまだ早い。
僕が宇宙飛行士となって、宇宙で行っている事。それは、新薬の研究だ。この研究が上手くいけば、難しいと言われている君の病気を、治す事ができるかもしれない。
薬ができたら。君の病気が治ったら。外の風に触れられるようになったら。
その時は、一緒に星を見に行こう。
天体望遠鏡を持って、野原に立って。君と一緒に、星を見よう。
本物の星を何年かぶりに見る事ができたら、君はどれだけ喜ぶだろう。その笑顔を見るために、僕は研究に勤しむ。
僕が、星空を君に贈る事ができるその日が訪れますように。窓の外に見える星に願いを捧げて、僕はラボへ戻るべく、宙を掻いた。
(了)