ガラクタ道中拾い旅~共に戦ってきた故に
「刀狩をする狼藉者?」
口にワラビモチを放り込みながら、ホウジが顔を顰めた。その横で、同じくワラビモチを口にしていたゲンマ、茶を口に含んでいたワクァとヒモトも険しい顔をする。
テア国の、王族が住まう館。中庭に面した中広間で、小休止をしていた時の事だ。報告に来た男は跪き、やはり険しい顔で言う。
「はい。場所は、ゴジョウ橋近辺。辺りの者に無差別に襲い掛かり、負傷者も多数出ている模様。中でも刀剣を持つ者は酷く痛めつけられ、武器を奪い取られているとか……」
「武器を?」
思わずラクに手を遣り、ワクァは呟くように言う。ホウジが、「かーっ!」と苛立ち紛れの叫び声を発した。
「たった一人の狼藉者に、何人もの武士が刀を盗られたってのか? 情けねぇ!」
「それが……どうやら相手は、妖術の類を使うようでして……」
「妖術だぁ?」
困り果てた様子の男の言葉に、ホウジは素っ頓狂な声をあげる。男は、ますます困り顔だ。
「何でも、刃を交えた途端に刀が相手の刀に吸い付き、離れなくなったとの事。動揺している間に、斬られてしまったようにございます」
「吸い付く、なぁ……」
難しい顔をして唸りながら、ホウジはワラビモチが空になった皿を置き、刀を手にして立ち上がった。ヒモトとゲンマ、ワクァもそれぞれ武器を手にして立ち上がる。
「とにかく、今もそいつは暴れてるんだな? なら、まずは俺達が様子を見に行く。お前は今の話を、父上と兄上にも申し上げておいてくれ」
「はっ!」
応じるや、男は立ち上がり、中庭から素早く退出していく。それを見送る事無く、ホウジはワクァの方に顔を向けた。
「そういうわけだ。妖術抜きにしても、手強い相手みてぇだからな。警備の役人だけに任せちゃおけねぇ。俺達も出る。悪いが、ワクァも付き合ってもらうぞ」
勿論、とワクァが頷けば、ホウジはもう一度「悪い」と言い、苦笑した。
「折角はるばる来たのにな。鍛えるっつっても、こんな事までさせるつもりじゃなかったんだが……」
そう……ヒモトとの婚約が決まった時に、テア国王のクウロがヘルブ国王への親書に記した、「厳しく鍛えられたいのであれば、いつでも当国に送り込まれよ」という言葉。それがテア国側の招待により実施されてしまい、現在ワクァはテア国の鍛錬場にて剣術以外の武技を身に付けるべく修行中の身である。
ちょっとした留学のような物ではあるが、ホウジの「お前は剣に依存し過ぎるところを何とかしろ」という言葉もあって、鍛錬場ではがんがん放り投げられ叩きつけられ。ついでに朝夕にはホウジやヒモトを相手に剣の手合わせまでして、中々ハードな日々である。
しかし、元来体を動かす事が合っている性分であるため、苦にはならない。それどころか、ヘルブ国でマナーの勉強を延々としているよりもずっと楽しい。
そんな日々の中で、突如起こった狼藉事件。密かに「またホワティア絡みでなければ良いが」などと考えつつ、ワクァ達は館から飛び出した。
# # #
現場であるゴジョウ橋に近付くと、次第に聞こえる悲鳴やざわめきが大きくなってきた。どうやら、戦闘はまだ続いているようだ。
「おい、道空けろ! こっから先は、俺達が引き受ける!」
ホウジが叫ぶと町の者達が目を輝かせ、どっと歓声が上がった。そう言えば、テア国の王族は国民に異様に人気があるのだったという事を否が応でも思い出させる。
町民達がどいてくれたお陰で開けた場所に足を踏み込むと、その瞬間、目の前に一人の男が投げ出されてきた。服装からして警備の役人のようだが、出血が酷く、自力では起き上がれそうにないほどの傷を負っている。
「誰か、すぐに手当してやれ! っつーか、危ねぇから下がれ!」
ホウジの声に、町人達は素早く言われた通りに動く。それと同時に、ザッと、地を踏みしめる音が聞こえた。振り向けば、黒装束に身を包み、顔まで隠した大柄な男が一人立っている。ワクァより、頭三つ分は大きいだろうか。とにかく、巨体だ。
「……どうやら、こいつが件の狼藉者みたいだね」
身構えながら、ゲンマが呟く。ワクァ達も頷き、各々が腰の刀剣に手を遣り、身構えた。
男が、子どもの背丈ほどもある刀身の大刀を構えた。ヒモト達の持つ刀よりも、ワクァの持つ剣に近い見た目だ。そして、刀身が黒い。
その黒さに警戒感を覚えつつ、四人は刀剣を抜き放った。
「妖術だか何だか知らねぇが、考えてるだけじゃ解決しねぇ! まずは小手調べだ!」
「相手の出方もわからないようじゃ、どうしようもないからね」
「いくぞ、ラク!」
「参りましょう、雪舞!」
己を鼓舞するようにワクァとヒモトが叫び、そして四人揃って地を蹴る。まずは素早いワクァとヒモトが相手の懐に入り、そして剣を振り上げた。
その時。一瞬だけ相手の目が見え、ワクァはハッとした。
目が、笑っている。己の思惑通りだとでも言わんばかりに。
「ヒモト、駄目だ! 下がれ!」
叫び、咄嗟にワクァは後ろに下がる。ヒモトも、ワクァの声に反応して思わず飛び退った。
間一髪で、相手の黒い剣がワクァの鼻先を掠める。一瞬、体が男の剣に吸い寄せられたような感覚を覚えた。
……いや、吸い寄せられたのは体ではない。腕……剣を持つ腕が、前方に引っ張られたように思う。
見れば、ヒモトも似たような感覚を覚えたのだろう。警戒の表情を強め、これまで片手で握っていた刀を両手で包み込むように握っている。
「どうした!?」
同じように斬りかかろうとしたのを寸前で止めたホウジが、少し苛立っているような声で問う。困惑した顔で、ワクァとヒモトはホウジに視線を向けた。
「今、剣が……」
「報告の通り、たしかに……吸い寄せられるように……」
ホウジは、「マジかよ」と言って舌打ちをする。だが、すぐに刀を構え直した。
「だからって、このまま遠巻きにしてるわけにもいかねぇ! やるぞ、ゲンマ!」
「まぁ、僕やホウジ兄上の刀は、ヒィちゃんの雪舞やワクァ殿のラクみたいに、失われたら心が折れちゃうぐらい大事な物でもないしねぇ」
「いや、俺だってこの刀は大事だっての!」
言いながらも二人は再び走り出し、強く地を蹴ると男に斬りかかった。その瞬間、ワクァはたしかに見た。
男が、ニィ、と笑った。
「ホウジ! ゲンマ!」
下がれと叫んだ時には、もう遅い。男が、大剣を振り払った。ホウジとゲンマは、辛うじてそれを刀で受け止める。ガキン、という音がした。
事は、それで終わらない。男が、二人に受け止められた事など意にも介していない様子で己の大剣を振り上げた。同時に、ホウジとゲンマから声が漏れる。
「うぉっ!?」
「なっ!?」
男が剣を振り上げると同時に、ホウジとゲンマの体が浮き上がっている。……いや、浮かんでいるのではない。持ち上げられているのだ。
二人の刀が男の剣にぴたりと吸い付き、剣と共に持ち上げられている。そして、吸い付いている刀を握っているホウジとゲンマの体も持ち上げられている……という図だ。
驚くべきは、男の大力だろう。右腕だけで大剣と二本の刀、大人であるホウジとゲンマまで持ち上げている。そして、空いた左手は……。
腰に回っている。腰には、一振りの刀。それに、左手をかけている。
「兄上方、刀から手をお放しください!」
ヒモトが叫び、ホウジとゲンマはハッとして刀から惜しみなく手を放す。数瞬のち、二人の体がそれまであった空間を、男が腰から抜き放った刀が薙いだ。
「あっぶねぇ……!」
着地しながら、ホウジが冷や汗交じりに言う。
「けど、今の吸い寄せられる感覚で、妖術の正体はわかったよ。多分、あの剣は磁石でできているんだ。それも、相当強力な」
ゲンマの説に、ワクァとヒモトはなるほど、と頷く。磁石で作った刀身だから、鉄でできた武器が吸い寄せられてしまう、という事だ。体が浮き上がり、身動きが取れなくなれば、普通の刀で斬られてしまう。
それにしても、厄介な相手だ。大柄で力も強いから、素手では絶対に敵わない。かと言って、武器を使えば磁石の剣に吸い寄せられ、取り上げられてしまう。
「さて、どうしたもんか……」
腕組みをして、ホウジが唸る。ホウジとゲンマは刀を男に取り上げられてしまっている状態だ。事実上、戦いに参加する事は不可能となったに等しい。
恐らく、最初に報告をしにきた男が、クウロかセンに報告した事で、後ほど応援が来るだろう。だが、それまで被害を増やしたりしないよう、食い止めなければならない。今、この場でそれができるのはワクァとヒモトだけだ。
「だが、剣が使えないとなると……」
ホウジよりも力が弱いワクァやヒモトに何ができるのか。ふと、脳裏にライオンの鬣色をした三つ編みが揺らぐ。
「……こんな時、ヨシならどうする?」
今は、バトラス族の集落で族長となるべく学んでいるだろう、旅の仲間の事を思い出す。彼女なら、恐らくこんな場面でたじろいだりするような事は無いのだろう。どんな物でも武器に変え、その場に応じて使いこなすのが、バトラス族なのだから。
じわりと、掌に汗を握りながら素早く辺りに視線を巡らせる。何か、ヒントは無いか。この場を何とかするためのヒントは。
橋の袂から、ずらりと店が並んでいる。簡易な作りの、屋台のような店だ。特に川に近いほど飲食店が多く、中には粉を練りかけて放置された物、火がかかったままの油まであるようだ。あれも、早めに何とかしなければ危ない。
町人達が慌てて逃げた事を示すように様々な物が転がっている。ボテフリが持ち歩いていた、商品を担ぐための道具。小物を持ち歩くための、小さな布の袋。板に紐を結びつけたような物は、ゲタという履物だったか。
男が、取り上げたホウジとゲンマの刀を、背負っていた袋に放り込む。ホウジが「俺の刀!」と非難がましく叫んだ。
「刀を持たぬ以上、兄上でも危のうございます! お下がりください!」
ヒモトが鋭く叫び、雪舞を抜き放ったまま男に向かっていく。
「待て、ヒモト!」
舌打ちをし、ワクァは叫ぶ。咄嗟に、ラクをホウジに手渡した。
「預かっておいてくれ!」
言い捨てるようにして駆け出した。
ヒモトは雪舞を掬うように振るう。白い刃は、男の足を少しだけ傷付けた。だが、これでは頭ががら空きだ。
男が剣を振り上げる。周囲から、悲鳴が聞こえた。
ワクァは二人の間に体を滑り込ませ、ヒモトを突き飛ばす。そして、自身も急いで地面を蹴って、体を男から放した。男の剣が地面にめり込み、男は憎悪の目でワクァを睨み付けてくる。
「ひょっとして、二度躱されたのは初めてか? それだけで気を害するという事は、今までよっぽど、自分に有利な条件でしか戦ってこなかったんだな」
挑発するように言えば、男の目が更に険しくなる。随分と簡単にのってくれたものだ。だが、これで当分の間、この男はワクァばかりを狙うようになるだろう。ワクァが何とか凌いでいる間は、他の者は無事でいられる。
「あなた様は、またそのような危険な……!」
「説教はあとで聞く! それよりも、サポートを頼む!」
ヒモトの非難がましい声に視線で謝り、真正面から男と相対する。男が、力任せに剣を振るった。それをワクァは紙一重で避け、咄嗟に近くに落ちていた棒に手を伸ばす。
しかし、その棒の両端には紐が垂れていて、その紐の先にはどちらも桶が括りつけられている。ボテフリが商材を運ぶのに使う道具だ。剣の代わりに使うにはバランスが悪いし、重い。
「だが、これぐらいなら……」
呟き、男が再び剣を振るってくるのに合わせて棒を力任せに振る。片側の紐が磁石の剣に絡み付き、そして千切れた。そこでヒモトが背後から攻撃を仕掛け、ワクァへの気を一瞬だけ逸らさせる。
その隙にワクァは再び男から距離を取り、その後また男はワクァに狙いを定めて襲い掛かってくる。そこでもう一度、残っていた紐を同じようにして千切らせた。
ただの棒になったそれを片手に、次はどうするかと考えを巡らせる。ただ剣のように使うのでは、すぐにへし折られて終わりだろう。武器として使うとしても、いつものようには使えない。
男が剣を構え、勢いをつけて襲い掛かってきた。だが、先ほどヒモトに足を傷付けられたからだろうか? 少しだけ、動きが鈍くなり始めているように思える。
ワクァは軽く地を蹴り、川沿いの飲食店へと駆け込んだ。飲食店というか、調理場と受渡し用の台があるだけで、ほぼ屋台と変わらない。
揚げ物を提供する店らしく、調理場に設けられたカマドの上では油を満たした鍋がもうもうと煙を立てている。店主はよっぽど慌てて逃げたらしく、カマドには火が入りっ放しだ。火事になる寸前である。
近くにあった布を掴むと手に巻き付け、その手で油の鍋を掴み上げた。そして、その中身を今まさに剣を振り下ろそうとしていた男に向かって思い切りよくぶちまける。
男は咄嗟に大剣で己の身を隠し、剣は熱された油まみれとなる。とりあえず、これで鍋が原因で火災が起こるのは避けられただろう。ただし、代わりに男の怒りに更に火が点いてしまったようだが。
「そりゃ、怒るに決まってんだろ! お前だって、ラクが油まみれにされたら、相手を生かしておかねぇとか考えねぇか!?」
心配してくれているのか、ホウジが言葉をかけてくる。だが、それに応えている余裕は無い。
男が油まみれになった剣を振り下ろす。ワクァは辛うじて躱したが、剣はカマドを破壊し、油まみれの剣に火が燃え移った。
男が燃え盛る剣を手にした事で、周囲から悲鳴が上がる。そんな中で、ワクァは焦りを感じない。頭の中で、これから起こるであろう事、そこから己がすべき事のイメージが、川のように流れていく。
ワクァは屋台から転がり出、それを男の視線が追う。勢いよく振り回された剣の火は、その勢いに因るものか、油があっさりと燃焼し尽してしまったのか、その黒い刀身が地面をえぐる前に消えてしまった。
しゅうしゅうと、白い煙だけがまだ立ち上っている。刀身は、かなりの熱を持ったらしく、よく見ると少々赤くなっていた。
「よし……」
誰にも聞かれないよう小さく呟き、しばらくの間鬼ごっこを続ける。そして、壁際に追い詰められたところで、これまでずっと持ったままであった空の鍋を投げ付けた。
男はせせら笑うように、鍋を剣で弾く。黒い鍋は地面に叩きつけられ、鈍い音を放った。
ワクァは小さく頷き、これまで温存しておいた棒を剣のように構える。男が剣を振り上げたところで懐に入り込み、足の傷を強かに叩いた。
男は呻き、蹲る。その隙にワクァはその場を抜け出し、ヒモト達の元へと駆け寄った。
「ご無事ですか!?」
ヒモトの声に、ワクァは「あぁ」と頷く。そして、ホウジへと視線を向けた。
「多分、あと少しだ。ラクを返してくれ」
「は? けど、剣じゃあいつと戦うのは……」
怪訝な顔をするホウジ達に構わず、ワクァはラクを受け取る。
「済まない、ラク。待たせた!」
それだけ言うとラクを抜き放ち、その白銀色の刃を閃かせて男へと攻撃を仕掛けた。男はニヤリと笑い、磁石の大剣でそれを受け止める。周囲から、悲鳴と失望の声が聞こえた。
だが。
ギインという音を響かせたかと思うと、ワクァはすぐさま着地する。刃が、男の剣に吸い付いていない。男の目が動揺で見開き、周りからも驚きの声が漏れた。
「何故……」
驚きの声がヒモトの口からも漏れ、それに数瞬遅れてゲンマが「そうか……」と呟く。
「磁石は、高温で熱すると鉄を吸い寄せる力が弱まるって、本で読んだ気がするな。短時間だったとは言え派手に燃えて、しばらくは少し赤くなっていたぐらいなんだ……多分、あの剣はもう磁石としての力は失ってる!」
ゲンマの解説に、辺りから「おぉっ」という声が漏れる。
「そういや、さっき鉄の鍋も吸い付かなかったな。……と言う事は、あの剣はもうただの剣と同じって事か」
「いえ、磁石でできているという事は、剣として斬る力には長けていないものなのではないでしょうか? だからこそ、腰に普通の刀を帯びていたように思います。ですから、あの剣は……今となっては、普通の剣よりも劣る、棒切れ同様かと」
ただし、ただの棒切れというには重量も硬度もあって危険な物だが。その危険な棒切れを躱しつつ、ワクァは男が背負っていた袋を斬り裂く。中から、男が奪い続けてきた刀が音を立ててこぼれ落ちる。
ワクァが積極的に攻撃を開始した事で男はその刀達に構っていられない。腰に帯びていた二本目の刀は、抜き放ってすぐに弾き飛ばされた。武器が磁石の剣のみとなり、男からは更に余裕が失われていく。
その隙をついて、ホウジやゲンマ、その場に残っていた役人達が己の刀を取り戻した。一斉に刀を構え、男を取り囲む。
取り囲み、じわじわと包囲網を狭めていく事で、男を町人達から引き離す。やがて、男とワクァは橋の上に足を踏み入れた。
自棄になったのだろう。男が剣を振り上げ、渾身の力を込めてワクァに振り下ろす。ワクァはそれを躱すと力いっぱい地面を蹴り、橋の欄干へと飛び乗った。
男が、欄干上のワクァに向かって剣を再び振り下ろしてくる。ワクァはその場で屈伸をすると、横へ跳ぶ。男の剣が欄干を砕き、勢いと剣の重さによって男が前のめりになった。
そこでワクァは再び欄干を蹴って跳び、一度男の頭を蹴ってから地面へと降り立つ。頭を蹴られた男は堪えきれなくなり、そのまま川へと落ちていった。
# # #
「お前……また随分と派手な事やったもんだよなぁ……」
館に戻り、茶を飲んでホッと一息ついたところで、ホウジが呆れ半分、感心半分の声で言った。
「下手人は、簡単に言っちゃえばただの戦闘狂。自ら改良して拵えた磁石の剣の威力を試してみたかったのと、普段から刀を帯びて戦う事を本分とする武士をけちょんけちょんに打ちのめしてみたかった、っていうのが動機みたいだね」
そりゃあ、そんなのが相手になったら、派手にもなるよ。……と、ゲンマが苦笑しながら言う。
「たしかに。まず、相手の戦い方が派手でしたからね」
「……と言うか、ヨシみたいな戦い方だったよな。武器じゃねぇモン使って戦って、飛んだり跳ねたりして。お前、ああいう戦い方もできたんだな」
「……一応、俺も八分の一はバトラス族の血が流れているらしいからな」
嘯いてみるが、ただバトラス族の血が流れているだけではあんな事はできない事ぐらい、百も承知だ。
ヨシのあの戦い方は、彼女が長年バトラス族の中で訓練し、発想力を磨いてきたからこそできる芸当で。そんな彼女と、旅を通して共に戦ってきたからこそ、ワクァはその真似のような戦い方ができた。
今回は何とかなったが、毎回同じようにできるとは到底思えない。できれば、剣のみでの戦い方で終わらせたいというのが、正直なところだ。
「今回の事で、ヨシの戦い方が規格外なんだと、改めて思い知らされた……」
疲れたように言うと、もう一口茶を飲む。その時だ。
「ホウジ、ゲンマ、ヒモト。それにワクァ殿。入りますよ」
外から声をかけ、テア国第一王子のセンが入ってきた。いつも通りの温和な表情だが、どことなく、いつもと雰囲気が違う。何やら、空気がピリピリしているような……。
「ホウジ、ゲンマ」
センの口から、厳しい響きを含んだ声が発せられる。途端に、ホウジとゲンマが姿勢を正した。センの顔が険しくなる。
「相手の出方を探るためとはいえ、無策のまま突っ込んで、刀を盗られたそうだね? しかもホウジは、たった一人の狼藉者に刀を盗られるなんて情けないと、自分で言っていたそうじゃないか」
「……」
「そして、二人とも危うく斬られそうになったと。……無謀なのは、勇敢なのとは違うと、わかっているね?」
「……」
ホウジもゲンマも、言葉も無く黙り込んでいる。その様子に溜め息を吐き、次にセンはヒモトに視線を向けた。
「ヒモトも、策を思い付かないうちに相手の懐に飛び込んでいったそうだね? ワクァ殿が助けてくれなければ、今頃死んでしまっていたかもしれないんだよ?」
「……はい……」
ヒモトも、しゅんと項垂れる。最後に、センはワクァに視線を向けた。
「ワクァ殿、貴殿もですよ」
声が、怖い。
「ヒモトを助ける為とはいえ、危険な場所に飛び込んだり、挑発して己を囮にしたり。挙句欄干の上を走り回った? それほど深くない川とは言え、落ちたらどうなさるおつもりですか? 貴殿に何かあったら、テア国とヘルブ国の関係がどうなるとお考えなのでしょうか?」
「……」
言い返す余地が無い。四人全員が黙り込んだところで、センは再びため息を吐いた。
「狼藉者を取り押さえ、町人達を守り切った事は重畳。しかし、己の身を守れなければ、手放しに褒める事はできません。四人とも、しっかり反省するように」
「……はい……」
四人揃って項垂れる。その様子にセンは三度溜め息を吐き、そして少しだけ苦笑した。
(了)