ガラクタ道中拾い旅
第六話 証の子守唄
STEP1 懐かしい顔を拾う
2
話には聞いていたが、本当に狭い家だった。家の中には小さなベッドと小さな暖炉だけ。なのに、人が二人入るともう立っていられるスペースが無い。
少しでも余裕のあるスペースを確保するためにヨシはベッドに腰掛け、ワクァは壁にもたれ掛った。
「それで……何のつもりだ?」
ワクァの問いは、先ほどマミアと話した時。ワクァがいつも通り性別を間違えられたのに、訂正をするどころか、女である事を肯定したともとれる返事をしてその場を去ってしまった事を指している。嘘は言っていないが、本当の事も言っていない。そんな感じだ。
「お前が場を盛り上げるために嘘を吐いたり誇張表現をしたりするのはいつもの事だが、さっきのはらしくなかったように思う。恐らく、あのマミアという女性も同じように感じているんじゃないのか?」
ワクァがそう言うと、ヨシは「くはぁぁ……」と深いため息を吐いた。ヨシがこんなため息を吐くのも珍しい。どう反応すればわからずにワクァが言葉を探していると、ヨシは呆れ果てた顔をした。
「あんた……タチジャコウ領にいた頃、本当にニナン君としか親しく話してなかったのね……」
「……どういう意味だ?」
少しムッとして問うと、ヨシは再びため息を吐いた。
「あのね……あそこでワクァが男だってはっきり宣言したら、どうなったと思う? マミアさんをスタート地点に、私が男の子を連れてきたって話が、おばちゃんネットワークに乗ってあっという間に街中に拡がるわよ。いつの間にかどこかで〝男の子〟が〝恋人〟に変換されてね」
「な……」
「そうなったら、どうなるか? 暇人どもが大挙して覗きに来るわよ。酒場で働いてたから、私の事を知ってる人は多いもの。あんな騒ぎを起こしてるから、名前だけが独り歩きしちゃってる可能性も無いわけじゃないし」
口をパクパクさせるワクァに、ヨシは肩をすくめて見せた。
「男の子を連れてきた、よりは女友達を連れてきた、の方が街の人達にとっては詰まらないもの。ワクァの事を女の子と勘違いしてくれたのなら、そのままにしておいてくれた方が興味を引かなくて良いわ。大変な物を預かっているんだもの。人目は引かない方が良いでしょ?」
「そういう事か……」
ヨシは「そういう事」と頷き、そして「けど……」と言葉を継ぎ足した。
「遅かれ早かれ、どの道覗きに来る人はいるでしょうね。私の事を懐かしがって顔を見に……って人はいないかもしれないけど、ワクァの事を見に。美人がいるとなれば見たがる男の人は多いし、私の友達、なんて人物が騒ぎを起こしそうな危険人物かどうか確認したいでしょうし」
「なら……」
言い掛けたワクァに皆まで言わせず、ヨシは頷いた。
「埃だけ落として、とっととお城に行きましょ。〝お宝〟の事もそうだけど、私達がヘルブ街まで来ている事が噂であいつに知られちゃったりしてもまずいかもしれないし」
あいつとは、やはりあの男の事か。ウルハ族の村から追い続けている、あの男。過去に、ヨシに難癖をつけた、ワクァの過去を知るらしい、あの……。
思うところは多々あるが、今は考えたところで仕方がない。まずは城に向かうため、二人は手早く身支度を整え始めた。