ガラクタ道中拾い旅
第四話 民族を識る民族
STEP3 心の内を拾う
1
「ヨシちゃん、あっちのテーブルに鶏炒めと塩酒を三人前! あと、向こうのテーブルにメープルサワーを二つね!」
「はーい!」
喧騒に満ちた酒場の中で、ヨシは明るい声を張り上げた。両手に料理や酒を山盛りにしたお盆を持ち、時には転がった酔っぱらいを飛び越えながら器用にあちらのテーブル、こちらのテーブルへとこぼす事無く運んでいく。
「おう、ヨシちゃん。俺んトコにも塩酒くれよ!」
「えー? ラダさん、医者に塩っけのある物止められてるんでしょ? 塩酒なんて飲んで良いの?」
「良くはねぇけど、ここの塩酒ってたまに無性に飲みたくなるんだよな。あ、フライ盛りも一つ!」
「はいはい。おかみさーん。ラダさんに玉ねぎサラダとトマトジュース!」
「おい、そりゃねぇよ、ヨシちゃん!」
情けないラダの叫び声に、酒場内はドッと沸いた。
「まったく、良い歳した男が十五の娘に良いようにあしらわれて、悔しくねぇのかよ、ラダ!」
「良いぞ、ヨシちゃん! もっと言ってやれ!」
「あ、ネーマさん、先週のツケの支払いまだ?」
「そこでまさかの矛先転換!?」
悲鳴のようなネーマの叫びに、酒場内は再び沸く。その様子を楽しそうに眺めながら、マスターは出来たての料理をヨシに手渡した。
「本当、ヨシちゃんが来てからの二ヶ月間、今まで以上に賑やかだ。こんなに楽しい事は無いねぇ」
「ごめんね、ヨシちゃん。うちがもう少し広ければ、住み込みで働いてもらうんだけど……」
「そうだねぇ。せめて、もう少し給料を上げてあげる事ができれば、もっと条件の良いところに引っ越せるんだろうけど……」
「マスターもおかみさんも気にしないでよ。私、今の家からここまで通う道、嫌いじゃないもの」
申し訳なさそうに言う主人夫婦に、ヨシは笑いながら言った。そんなヨシに、客の一人が言う。
「金って言えばヨシちゃん、知ってるか? 例のお触れ!」
その問いに、ヨシは「馬鹿にするな」と言いたそうな顔で言った。
「あぁ、一ヶ月くらい前に出された奴でしょ? 知ってるも何も、ヘルブ街に住んでて知らない人間はいないと思うわよ?」