ガラクタ道中拾い旅
第三話 親友のいる村
STEP4 友情を拾う
5
「まぁ、その……何だ。間違いは誰にでもある。ここは一つ、何も無かった事にして……いや、本当にすまねぇって!」
数分後、広場にてトゥモから事情を聞いたアーク達村の若い衆は、腕組みをしたまま未だに青筋を浮かべているワクァを宥めるように言った。ワクァはしばらくジト目でその様子を見ていたが、図体のでかい男達が必死に謝るその姿が少々滑稽に見えたのか……苦笑交じりにプッと笑うと、体勢を崩してアークに言った。
「いや……俺も大人気なかったな。すまない」
その言葉を聞いて胸を撫で下ろしてから、アークは人好きのする笑顔を浮かべてワクァに言った。
「じゃあ、改めて自己紹介といこうか。俺はアーク=ハーヘッド。トゥモとは三つしか違わねぇ。超が付くような若造だが、一応この村の代表みたいな事をやってる。……っつっても、今は親父たちが皆他の村に出掛けてるからな。期間限定の代表みてぇなモンだと思ってくれ」
トゥモは、話によれば確か十七歳だった筈だ。という事はこのアークという青年の歳は二十歳。その若さで代理とは言え代表を務めて、加えてこの体格だ。きっと将来は、様々な面で村を支える事だろう。そのアークは、自らの紹介を終えるとトゥモを除く九人の若者を適当に並ばせ、右からアズ、クルヤ、ソウト、ナツリ、ミェート、ヨォク、スネッチ、チェージ、リョップと次々に名前をワクァに教えていった。それを受け、ワクァも名を名乗る。
「ワクァだ。大体の事情はさきほどトゥモが喋ってしまったから、特に紹介する事も無いが……何か訊きたいことがあれば、訊いてくれて構わない」
ワクァが言うと、早速若者の群れから手が上がった。あれは……確か、ソウトと言ったか。ソウトは田舎の人間らしいのんびりとした口調で問う。
「親探しの旅の途中だって言うけど、何か手がかりはあるのか? もしあるなら、俺らが野菜や乳製品を売りに外へ行く時、それらしい人がいないか探してやるぞ?」
「え……」
まさか、そんな提案が出るとは夢にも思っていなかった。一瞬驚いた顔をして、ワクァは次の言葉を紡ぐ。
「残念ながら、手がかりは全く無い。親の顔どころか、自分の実年齢やファミリーネームすらわからないんだ……」
だから、手伝ってもらう事はできない。それでなくても、これは俺の問題だから、そこまで迷惑をかけるわけにはいかない。そう言うと、ソウトは更に負けじと言葉を続けた。他の若者達も、その言葉に続く。
「じゃあさ、何か手がかりがあったら、俺たちに教えてくれよ。そしたら、その手がかりを元に探すの手伝うからさ」
「けどさ、何かわかったとしても、どうやってこっちから報せるんだ? ワクァはずっと旅をしてるから、手紙を出したって届きやしないぞ?」
「あ、だったらさ、ワクァが何ヶ月かに一回、この村に来れば良いんだよ。そうすれば、何かあったらその時に教えてやれるじゃん」
「ワクァ、お前、トゥモと友達になったんだろ? だったら、俺達とも友達じゃねぇか。迷惑をかけるわけにはいかない、とか水臭い事言うなよ」
「そうそう。俺達は、困ってる人間を見捨てたりはしない。それが友達なら、尚更だ」
「お前が今までどんな人生歩んできたか、なんて俺たちにはわからないけどさ。だからって、俺達に頼っちゃいけない、なんて理由にはならねぇだろ?」
「うん。人の好意は、ありがたく受け取っとくもんだぞ」
「一緒に頑張ろうぜ。一人じゃできない事も、仲間がいれば案外簡単にできたりするもんだしよ」
「そうそう。一人で何でも背負うなよ。そんなんじゃ、いつか潰れちまうぞ?」
各々の言葉を聞いて、アークは満足そうに頷くとワクァの肩を軽く叩いて言った。その顔には、頼もしい笑顔が浮かんでいる。
「そういう訳だ。大した力にはなれねぇかもしれねぇが、一度ダチになったからには、俺たちはお前の味方だ。頼ってくれて構わねぇ」
頼もしい。……が、何で初めて会った自分にそこまでしてくれるのか。首をかしげているワクァに、トゥモが言った。
「ね? みんな良い奴っス。損得抜きで、友達の事を真剣に考えてくれる奴ばかりなんスよ、この村の人間は……」
誇らしげに言うトゥモに、ワクァは確かにその通りだ、という意味を含んだ微かな笑みを顔に浮かべ、頷いて見せた。それにニコッと頷き返すと、トゥモはアークに問うた。
「ところでアーク。みんな弓矢を背負っているっスけど、今日は何かあるんスか?」
「あ、そうそう。すっかり忘れてたぜ。トゥモ、今から俺達は狩りに行くんだが、お前も行かねぇか? 勿論、ワクァも」
「良いっスね。狩りなんて久しぶりっスよ。あ、ワクァはやった事あるっスか? 狩り」
問われて、ワクァは少しだけ記憶を辿ると答えた。
「いや、初めてだ。旅の間、魚は獲っていたが、肉は街で買う干し肉で済ませていたからな」
それに、傭兵奴隷時代は主人に護衛としてついていく事はあっても、自分自身が狩りに参加した事はなかった。ワクァがそう言うと、トゥモは得たりと言うように言った。
「じゃあ、最初はみんながやってるのを見ていた方が良いっスかね? 獲物を追うのに夢中になってると足元が疎かになりやすいっス。足を滑らせて川に落ちたりしないよう、気を付けるんスよ?」
瞬時に、ワクァを含む全員が声を揃えて言った。
「それはお前だけだ」