縁の下ソルジャーズ緊急出動!
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「そう言えば、噂で聞いたんだけどさー。このままだとピンク、クビになるらしいよ」
その言葉に、誠は思わず足を止めた。見ず知らずの人間に話を聞かれているとは気付かぬまま、話は続けられている。
「そうなの? 何で? ピンクって、ピンクらしからぬ強さと冷静さがあってカッコイイし、チームのまとめ役って感じじゃない。必要でしょ?」
「冷静さがあるのは、場数を踏んできたから。ピンクの年齢、知ってる? もう二十七歳だよ? 余裕で戦隊の最年長だし」
「え、クビになる理由って、年齢?」
話を聞いていた女の声が、少しだけ不機嫌になった。同じ女として、年齢を理由にどうこうされる話が気に食わないのかもしれない。話し始めた男は、残念ながらその事に気付いていないようだが。
「そりゃあさ、老化したなんて言わせないぐらい強いよ? ピンク。けどさ、ピンクってやっぱ若くて可愛い女の子ってイメージがあるし。最年長で薹の立ったピンクとか、誰得? って感じだしさ。政府も、国民の血税で戦隊を結成してる以上、少しでもイメージが良くて人気が出るメンバーで揃えたいんじゃないの?」
大体さ、と、男は更に言葉を続ける。
「今の戦隊、街を壊し過ぎなんだよな。そりゃ、一番悪いのは怪人なんだろうけど。けど、戦士が率先して街を破壊してるような面もあるし。チームのまとめ役がしっかりしてないから、無駄に建物を壊す事になるんだって考える奴が出てもおかしくないでしょ」
そんな事は無い、と誠は言いたくなった。たしかにここ数年で街の破壊率は上がってしまっているらしいが、それは敵が強くなったからだ。戦士達は……世良は、少しでも被害を減らそうと頑張っている。けど、それを知っているのは結局、近くで見ている自分達だけなのかもしれない。
「どの道、そろそろ街を壊し過ぎた責任、って口実で、誰かを辞めさせるつもりだと思うよ、政府は。そうなるとやっぱり、まとめ役やってて、ピンクなのに可愛げがない、薹が立ってる奴を……ってなるだろ?」
「……レッドは?」
女の方の声が一オクターブ低くなっている。しかし、男はそれに気付いていない。
「あぁ、レッドね。うん、あいつもやばいよな。レッドなのに病弱って。けど、それでキャラは立ってるし、元気な時は反則レベルに強いし。何よりまだ若くてイケメンだからさー。女の人気を稼ごうと思ったら、あいつは辞めさせられないだろ」
そして、男は満足気な顔をして己の意見をまとめた。
「だからさ、今のピンクをクビにして、新しく若くて可愛いピンクを入れれば良いんだよ。まとめ役がいなくなれば、他のメンバーは気が引き締まるだろうし。見た目も華やかになるし、万々歳じゃん? 今までの戦隊も、そうやって少しずつ入れ替わってテコ入れしてきたんだしさー」
そう言ったところで、男の頬に女の平手が飛んだ。あまりにも、言葉の端々にデリカシーが無さ過ぎだ。これは関係の無い者でも、ぶっ飛ばしたくなる。ましてや、世良達の事をよく知っている誠は……。
殴りたくなった。殴りたかった。だが、それはできなかった。
誠は、身も心も弱い。人に喧嘩を売るなんてできないし、殴りかかるなんて以ての外だ。技術班への所属を希望したのも、それが理由で。
だから、黙ってその場を離れた。平手を喰らわせた女性に心中拍手をしつつ。そして、もやもやとした気持ちを抱えつつ。