拝啓、戦隊ヒーロー様
(お題:悪役視点でヒーローポジションの奴に対する話)














拝啓 戦隊ヒーロー様



厳寒の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

さて、今年もまた、旧戦隊と新戦隊が交代する時期がやって参りました。最早恒例となりました、旧レッドと新レッドの交代式に、期待と不安で胸を膨らませている方も多い事でしょう。

それに伴いましてお願いたしたき儀があり、この度書状を送らせて頂く運びと相成りました。

例年通りですと、今年もまた我々悪の組織が地球の平和を奪おうとし、貴殿ら戦隊がそれを阻止する……という筋書きが用意されている事でしょう。

一話ごとの展開も、怪人が現れて事件を起こし、貴殿らが真相に辿り着き、雑魚戦闘員と怪人、貴殿らが入り乱れての乱戦の後、撃破。怪人が巨大化したところで貴殿らが巨大ロボットを繰り出し、とどめを刺す事になるかと思われます。

しかし、いわゆる王道となっているその展開に、我々は常々、非常に不満を抱いております。

我々が地球の平和を脅かすと貴殿らはお考えですが、何故我々が地球を付け狙うのか、考えた事はおありでしょうか?

一部例外はございますが、ほとんどの悪の組織にはそれぞれ地球を狙う理由がございます。その理由を、お考えになられた事はございますか?

住める場所が少なくなり、新たな住処を求めて地球を狙う者もおります。貴殿らの先祖とて、そのようにして現在の土地を確保してきたのではありませんか?

たまたま、貴殿ら地球人及び地球人が発する精神エネルギーが飢えを満たしてくれる体質の者もおります。貴殿らとて、飢えを満たすために食される豚や牛から見れば、その者達と何ら変わりないと考えるのは、我々だけでしょうか?

また、戦闘時の人数配分にも、常日頃より不平等感を覚えております。こう言うと、貴殿らは「お前達が言うな」と思われるかもしれません。たしかに我々は、貴殿らを斃すために何十人もの戦闘員を送り込んでおりますから。

ですが、考えてもみてください。戦闘員と言っても、地球の一般人に毛が生えた程度の強さなのです。

格闘技の心得があれば、変身する事ができない一般人でもある程度は斃せてしまうぐらいでございます。

ましてや、貴殿らはただでさえ強い上に、変身して攻撃力も防御力も格段に上がっています。一人に対して雑魚戦闘員十人でも足りないほどなのではないでしょうか。

それなのに、一度の戦闘で送り込む雑魚戦闘員の数はいつも多くて五十人程度。予算や人手の都合上、これ以上を毎回投入する事は難しいと思われます。

加えて、貴殿らは強力な武器も持ち、最後にはバズーカ砲まで出してくる。これに不満を感じずにいられましょうか。

せめて、毎回の戦闘で必ず一人ないし二人欠けている、武器が調整中、などの配慮をシナリオに加えて頂きたいと、切に願わずにはいられません。

そして、これは特にブルーを担当される方に申し上げたい事なのですが。悪の組織の女幹部と、勝手に恋に落ちるのは、やめて頂けませんでしょうか。

ただでさえ女性の数が少ない組織が殆どであるというのに、ここで貴殿らの方へと裏切られてしまっては、男性構成員に対しての立つ瀬がございません。

女旱の環境で何とか耐えてきた者の中には、マドンナ的存在であった女幹部の裏切りにショックを受けてまともに働けなくなってしまう者まで出る始末です。

貴殿らには縁遠い話かもしれませんが、末端のモチベーション低下という物は組織の停滞に繋がります。悪の組織を運営する身としては、この状況を看過する事はできかねますので、失礼を承知でお願い致したい所存です。

まことに勝手ではございますが、以上の三件、是非ともご一考頂きたく存じます。なにとぞ、よろしくお願いいたします。

末筆ながら、貴殿らのご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。







敬具

悪の組織より














(了)













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