亡国の姫と老剣士





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「お姫さん! おるかね?」

突然部屋の外から聞こえてきた声に、メイシア王女はビクリと肩を震わせました。聞いた事の無い訛りで喋る、聞いた事の無い少女の声です。敵意は感じませんが、それでも王女は少々警戒して問いました。

「……どなたですか?」

すると、その言葉を入室の許可と取ったのか、それとも初めから在室が確認されれば勝手に入るつもりでいたのか……扉が開き、声の主が部屋の中へと足を踏み入れてきました。

「え? ……あの、貴方は……」

闖入者に王女が戸惑っていると、少女はパッと顔を上げました。十五、六歳くらいの少女です。

「お初にお目にかかるがね、お姫さん。自分は、パルペット・セレ・ゼクセディオンだがね!」

「ゼクセディオン? ……まさか貴方は、フィルグの……」

パルの名乗りに、王女は思わず目を丸くしました。王女の言葉に、パルはこくりと頷きます。そして、急に辺りをきょろきょろと見渡し始めた王女に言います。

「ああ、勿論見張りの魔法騎士とか騎士には眠っていて貰っとるがね。少しくらい騒いどっても、問題あらせんよ」

言われて部屋の外を見てみれば、廊下のあちらこちらに見張りの魔法騎士達が転がっています。パルは自慢げに茶色い液体の入った瓶を見せました。

「不眠症患者とその家族に大好評の魔法の睡眠薬だがね。ただ、たった数滴皮膚に附着しただけでまる一日眠ってしまう効果は危険過ぎるってフィル爺ちゃんに怒られて以来、残念ながら販売はしとらんがね」

「は、はあ……」

パルのテンションについていけずに王女は曖昧な返事をしました。そんな態度を気にする事無く、パルは言葉を続けます。

「それはそうと、今日はお姫さんをここから連れ出す為に来たんだがね。そういう訳だで、お姫さん、早くここから出る準備をしやー」

「! それはできません! 私がここを出た事が知られれば、ヘイグは今度こそツィーシー騎国の民を全て殺してしまいます! それに、私は……」

「そのヘイグを倒す為に、今、二人の騎士がヘイグと戦っとる」

王女の言葉を遮るように、パルが言いました。その目は、いつも以上に真剣です。

「ヘイグを倒せば、お姫さんが何処にいようとツィーシー騎国の民を殺す奴はいなくなるがね。その為にも、お姫さんに二人の騎士をすぐ近くで応援して欲しいがね。それに……お姫さんが近くにいるだけで、きっともっと強くなるがね、ニールは!」

「!」

パルが口にした名前に、王女は目を見開きました。王女が息を呑む音を聞きながら、パルは淡々と言います。

「ニールは、お姫さんを助けようとしてヘイグに挑み、一度は敗れたがね。けど、諦めなかったがね。それもこれも、お姫さんを助けたい為だがね! そんなニールを助ける為に、お姫さんに動いてほしいんだがね! 助けに来るのを待つって約束を破ってでも!」

パルの言葉に、王女の瞳が揺らぎます。パルは、追い打ちをかけるように言いました。

「ニールはお姫さんを助ける為なら、死ぬのも辞さん覚悟だがね……。今お姫さんが動かなければ、二度とお姫さんとニールは会えんかもしれんがね! お姫さんは、それでもええんかね!?」

「!」

王女が、ハッと息を呑みました。そして、少しの間だけ考えるとキッと顔を上げます。もう一度見張りの騎士達が眠っている事を視認すると、王女はパルに言いました。

「……ニール達の元へと参ります。パルペット、案内をお願いできますか?」

その言葉に、パルはニコリと笑いました。そして、ドン! と胸を叩きます。

「任せとくがね! 絶対に、お姫さんとニールを会わせてみせるがね!」

そしてパルは王女の手を引き、以前ティグを逃がす際に使用した穴へと足を急がせました。




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