柳沼奉理×陰陽Gメン警戒中!
一時的なものとはいえ、こんなに平和で良いんだろうか。こんなにのんびりしていて良いんだろうか。
焦りにも似た疑問が、奉理の脳裏に浮かんでは消え、そしてまた浮かぶ。
だが、その疑問について深く考えるには、場が悪過ぎた。
「お客様は?」
「神様です!」
「そう言うお客は?」
「ただのクズ!」
「「よくもいらっしゃいやがりました、おクズ様with邪悪なるモノーっ!」」
悲しいかな。出身作品がどれほどシリアスであろうとも、音妙堂書店の敵ではなかったのだ。
おろおろとするしかない奉理の眼前で、店長の松山と、この店の万引きGメン……平成の陰陽師である天津栗栖が暴れている。暴れているといっても、松山はノリノリで指示を出しているだけで、一歩も動いていないが。
相手は、先程レジで偉そうな態度を取っていたと思ったら、帰り際に万引きが発覚した客──松山達曰く、おクズ様。色々とストレスを溜めていたのか、邪悪なるモノと呼ばれる悪霊を出現させてしまい、今現在、音妙堂書店は調伏バトルの真っただ中だ。
万引きは、良くない。客という立場を利用して、店員に偉そうな態度を取るのも、良くない。鎮開学園で常識が色々と歪んでしまっている奉理でも、そう思う。だから、あの万引き犯が今現在制裁を受けている事に関しては、まぁ仕方が無いかな、と思ってしまう。
だが。……だが。
それにしたって悪ノリが過ぎないだろうか。しかし、この場を一体どうやって納めれば良いのか。奉理にはさっぱりだ。見当もつかない。
もっとも、それは奉理が心配するような事ではなかった。バックヤードから、レジから、二川と西園がツカツカと歩いてくる。そして、ハンディモップで、スリップ束で、二人の頭をすぱーん! と叩いた。
「いい加減にしてください。ツッコミ役の本木さんがいなくて寂しいんでしょうけど、羽目を外し過ぎです。このまま秩序と共に店も崩壊させたいんですか?」
「……って言うか、いくら優秀でも学生バイトに変わりはない本木さんがいないだけで秩序が崩壊するとかホンット有り得ないし! 結界内で起こった記憶は消せると言っても限度があるだろうし、やるならバックヤードの中で! って本木さんが言ってたの忘れたワケ!?」
そう言うと、二人は頭を押さえて呻く松山と栗栖を引き摺ってバックヤードへと連行してしまう。松山は、引き摺られながらも万引き犯の足を掴んで離さず、まるで妖怪だ。その執念だけは、見習いたい気もする。
バタンとバックヤードの扉が閉まるのを見届けてから、奉理はため息を吐き。そして、「強い……」と呟くと、そのまま在庫チェックに戻るのだった。